神戸新聞2019年11月6日掲載
執筆者:渡田 嘉樹弁護士
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父は所有する土地を企業に貸しており、5年前に亡くなりました。相続人は私と姉の2人ですが、姉が賃料収入を独占しています。遺産分割協議は行っていません。私は賃料について権利を主張できますか。
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お父さまが5年前に亡くなられて以降に、土地の借り主である企業から支払われた賃料については、過去の裁判例によれば、特に遺言などがない場合、遺産分割協議が完了していなくても、各相続人が法定相続分に従って取得することになります。
それにもかかわらず、ご相談のケースでは、お姉さまが土地から生じる賃料全てを取り込んでしまっていますので、民法第703条に基づいて、法定相続分である2分の1の賃料を返還するように求めることができます(これを「不当利得返還請求」といいます)。
ただし、お姉さまが土地の管理費用(例えば、その土地の固定資産税など)を負担しているのであれば、取得した賃料から控除するなどして考慮するべきでしょう。また、2分の1の賃料の返還を求める以外にも、2人の間で遺産分割協議を行う際に、お父さまが亡くなられて以降の賃料をお姉さまが取得していることを考慮し、あなたの相続分を多めにして、遺産を分割する方法も考えられるところです(ただし、遺産分割協議で賃料の間題を扱うことについての合意が必要となります)。
なお、遺産分割協議が完了して以降に支払われる賃料は、土地の相続人が取得しますので、あなたとお姉さまが土地を共有で相続した場合は共有持ち分の割合に従って、どちらかが単独で相続した場合は単独で賃料全額を取得することになります。
既にお父さまが亡くなられて5年が経過しているとのことですので、企業から支払われた土地の賃料も相当な金額になっていると思われます。このまま遺産分割協議を行わずに、お姉さまが賃料全てを取得する状況が継続すれば、返還を求める金額も大きくなりますので、2人の間で賃料の返還をめぐって争いとなってしまう可能性もあります。
あなたとお姉さまの関係性にもよりますが、なるべく早めに過去5年間の賃料の清算を含めて、遺産分割協議を行うことを持ち掛けてみてはいかがでしょうか。