神戸新聞2019年7月3日掲載
執筆者:森川 直人弁護士
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台風で自宅の屋根の一部が破損し、隣人の家の壁を損傷させてしまいました。修繕をしてほしいと言われていますが、隣人が加入している火災保険で対応すればよく、私には賠償義務はないのではないですか。
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今回の事例について、相談者が賠償義務を負うかどうかは、自宅の屋根について瑕疵(その物がその種類に応じて通常備えているべき安全性を欠いていること)があったために、お隣に損害が発生したといえるかどうかによります。
また、相談者が建物の所有者ではないけれども、賃借人などで、建物を実際に使用している方(占有者) である場合は、瑕疵があったとしても、建物の設置、保存に関して損害の発生を防止するために必要な注意をしていたときは、過失がないものとして責任を免れます。
さて、問題となりますこの瑕疵による破損の有無については、実際の屋根の破損状況や、災害の程度などにより個別に判断されることになります。
例えば、周囲一帯の建物の屋根に同様の破損が生じている場合は、仮に通常確保するべき安全性を満たしていてもなお不可抗力で生じた破損であり、瑕疵による破損が認められないとして、責任が否定される可能性があります。
逆に、相談者自身の自宅建物にのみ破損が生じ、その原因が、災害前からその部分の強度や保存状態が不十分であるなどの事情がある場合は、瑕疵による破損があるとして、この破損によって生じた損害を賠償する責任を負うこともあるでしょう。
このたびの事例につきましても、相談者の自宅のみが破損したのか、それともその周囲一帯に同様の破損が生じたのか、台風前からその問題となった屋根の部分に既に損傷が生じていたのかどうかなど、具体的な事情によって賠償責任を負うかどうかが異なってきます。
瑕疵による破損の有無の判断が困難な場合は、お隣同士の今後の関係を考慮して、双方が話し合いの上で一定割合の損害回復費用を負担し合うという解決を検討される余地もあります。
解決に向けてどう判断するか困った場合は、被災者向けに無料の法律相談も実施しておりますので、兵庫県弁護士会へお問い合わせください。