神戸新聞2019年4月3日掲載
執筆者:野田 健人弁護士
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水漏れで業者に来てもらい、代金の見積額を提示してもらったところ、3万円だったので工事をお願いしました。ところが工事が終わると10万円を請求されました。支払わないといけないでしょうか?
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相談者が業者に対して水漏れ工事代金として10万円を支払わなければならないか否かは、相談者が業者に対して10万円で水漏れ工事を依頼するという内容で契約の申し込みを行ったか否かで決まります。
今回の相談のような水漏れ工事の依頼は、法的には契約を結ぶ行為です。契約は、申し込む側の申し込みと相手方の承諾の合致によって成立します。
そのため、相談者と業者がどのような内容の契約を結んだのかを知るためには、①相談者がどのような内容で契約の申し込みを行い、業者がどのような内容で承諾したかを検討し、②申し込みの内容と承諾の内容が合致しているのかを考えていくことになります。
今回のケースでは、相談者は業者から提示された見積額が3万円であったことを理由に業者に水漏れ工事を依頼しているので、3万円で水漏れ工事の申し込みを行ったと考えられます。
一方、業者も、そのまま水漏れ工事を行った場合は、見積り通り3万円で水漏れ工事を行うことを承諾したと考えられます。
そのため、後になって業者が相談者に10万円を請求したとしても、少なくとも相談者が3万円で水漏れ工事の申し込みを行っている以上、相談者が支払う義務がある金額は3万円ということになるでしょう。
ただし、見積書などに追加費用がかかることがあると明記されているような場合や、水漏れ工事を進めていく中で業者から追加費用がかかる趣旨の説明があり相談者がそのことを承諾しているような場合には、相談者が3万円以上の水漏れ工事代金を支払わなければならないケースも考えられます。
結局、見積りは、法的には契約の前段階にすぎません(法的には「申し込みの誘因」といいます)。見積りの金額は、あくまでも契約を結ぶ当事者が水漏れ工事代金の金額がいくらであると考えていたのかを推測させる―つの事情なのです。