神戸新聞2018年11月7日掲載
執筆者:清田 美夏弁護士
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私は最近、民事信託を勧められましたが、民事信託とはどのような制度なのでしょうか?どのようなメリットがあるのでしょうか?教えてください。
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信託は委託者が自分の財産を受託者に移し、受託者はその財産を信託財産として、目的に従って受益者のために管理や処分をする契約の一つです。受益者は、受託者から利益を受け取ります。目的は委託者と受託者の契約で、法に反しない範囲で自由に定めることができます。
このため、信託は判断能力が落ちた高齢者の財産を守りたい、認知症になった後も柔軟な資産管理をしたい場合や、障害のある子どもの親亡き後の財産管理を第三者に任せたいケース。遣産を取得する人だけでなく管理方法まで定めたいとか、死後の事業承継について、特定の者に権利を集中させたい場合などに活用すると有効です。
民事信託のメリットは、委託者と受託者との信託契約の内容次第で、柔軟に後見や遺言などの他の法制度ではできない財産の管理・ 処分方法や承継方法を定められる点にあります。
例えば、認知症になった場合は、成年後見制度の利用も考えられます。しかし後見人が付くまでに財産が流失する恐れがあり、後見人が付いても、財産の管理処分に裁判所の許可が必要な場合もあります。民事信託を利用すれば、受託者の財産管理の開始時期や管理処分方法を柔軟に決めることができます。
また、判断能力が落ちてもまだ後見人が付いていない場合、民事信託を利用することで、第三者に適切に管理を任せることができます。
次に、遺言は遺産を取得する者を定めることはできても、遺産の管理方法や相続人が亡くなった後の取得者まで定めることはできません。相続人全員の合意で遺言とは異なる遺産分割になることもあります。
事業を展開している場合は、特定の相続人にその権利を集中させた時に遺留分の間題から、経営権の分散が生じる恐れもあります。しかし、信託を利用すれば遺産の管理方法、相続人の次の代の承継者も決められます。事業の権利は特定の者が相続し、利益は相続人全員で受け取るという柔軟な処理も可能になります。