神戸新聞2018年9月19日掲載
執筆者:大野 彰子弁護士
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会社で勤務中に、 同僚と口論になり、一方的に暴力を振るわれて、けがをしました。同僚だけでなく、会社に対して損害賠償請求はできないでしょうか?
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故意または過失によって他人の権利を侵害し、これによって他人に損害を生じさせた人に対しては、損害を賠償するよう請求することができます(民法709条)。相談のように、一方的に暴力を振るった同僚には、それによって生じた治療費や慰謝料などの損害を賠償するよう請求できます。
それでは、会社に対しても損害賠償請求はできるのでしょうか。民法715条は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。従業員が業務中に第三者に加害行為をした場合、会社は使用者としてこの第三者に対し損害賠償責任を負います。
このように、問題となる加害行為が「事業の執行について」なされた場合には、会社に対する損害賠償請求も可能となります。判例上、「事業の執行について」と言われる行為には、被用者の事業の執行から直接生じたものだけでなく、それと密接に関連する行為も含まれます。
また、被用者の職務執行行為そのものではなくとも、その行為を客観的、外形的にみて、被用者の職務の範囲内に属すると認められるものも含まれます。もっとも、会社が、被用者の選任やその事業の監督について相当の注意をしていたか、または相当の注意をしても損害が生ずべくして生じたときには、会社の責任は否定されることになります。
以上のことから、従業員同士の暴力行為についても、事業との関連性が認められるのであれば、会社の損害賠償責任が認められるでしょう。この場合、被害者は、直接の加害者である同僚と会社のいずれに対しても、損害賠償請求をすることができます。
もちろん、それぞれから実際に発生した損害額を超えて二重に支払いを受けられるという意味ではないことに注意する必要があります。