神戸新聞2018年9月5日掲載
執筆者:藤田 佳世弁護士
-
妻とは離婚の話し合いをしていたところでした。ある日、自宅に帰ると、妻と子どもが家電製品や家具を持って引っ越していました。私も家電製品や家具が必要ですので、取り返すことはできないでしょうか。
-
婚姻中に、共同生活で使用するために購入した家電製品や家具は、夫婦の共有財産です。このため、共有者である妻が家電や家具を持ち出すことは違法ではありません。ただ、離婚するまでの別居期間中、これらの共有財産をどちらが使用するかは、夫妻で協議して決めるのが賢明です。
もし妻が、妻と子どもが生活する上で、必要性が高くないと思われる家電や家具を持ち出し、夫にその引き渡しを拒んでいるのであれば、夫婦の協力扶助義務の一つとして(民法752条)、妻にそれらの物件の引き渡しを求める方法があります。
裁判所の手続きを利用し、夫婦の協力扶助義務に基づく物件の引き渡しを求める場合は、妻を相手に、家庭裁判所に物件の引き渡しを求める調停を申し立てることができます。それでも決着しない場合は、裁判官が決定を下す審判手続に移ります。
実際に別居中の夫婦の一方が他の一方に対し、生活上必要な自らの衣類や家財道具、子どもの教科書、衣類などの引き渡しを求め、審判と審判前の保全処分(相手方が目的とする物を廃棄しようとするなど、審判が出るまで待つことができない場合に利用する手続き)を申し立てた事例があります。
その事例で、裁判所は夫婦の協力扶助義務の一形態として、別居中の夫婦の一方が他の一方に生活上必要な衣類や日用品などの引き渡しを求めた場合には、他の一方は自分の生活に必要でない限り、これに応じる義務を負うと判断しています。
夫婦の共有財産である個々の物品について、引き渡しの必要性が認められるかは個別の判断になりますが、妻と子どもが生活する上でその家電製品や家具を必要としている場合には、別居期間中、妻からそれらを取り返すのは難しいと思われます。 なお、最終的に離婚する際には、家電や家具を夫婦のどちらが取得するか、財産分与の間題として、夫婦間で協議することになります。