神戸新聞2018年7月18日掲載
執筆者:大多和 優子弁護士
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夫が亡くなり、財産を相続することになりました。夫の財産の中には、不要な不動産があり、固定資産税などの負担も大きいので、不要な不動産のみ所有権を放棄したいと考えますが、可能でしょうか?
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結論としては、不要な不動産のみ所有権を放棄するということは一般的には難しいです。
まず、夫が亡くなったことを知って3カ月以内であれば、家庭裁判所で「相続放棄」の手続きをすることができます。ただ、これは夫の相続財産の全てを放棄する手続きなので「不要な不動産のみ放棄する」ことはできません。
夫の財産の中に、どうしても必要な不動産がある場合は、他に不要な不動産があっても相続放棄の手続きは取らず、夫の財産の全てを相続するという選択をする方が多いと思います。そこで、相続後に不要な財産のみ所有権の放棄ができるのか、ということが問題になります。
今の民法では、不動産について所有権の放棄を明確に規定した条文はありません。また、不動産登記法には、放棄による所有権抹消登記に関する規定はありません。そうなると、訴えを提起して、放棄について国の同意と登記の引き取りを求める以外にありませんが、国に多額の経済的負担を強いることになるため、そのような請求が認められることは通常はありません。
もっとも、国がその不動産に価値を認めて放棄に同意した場合、所有者がいなくなり、その不動産は国庫に帰属することになります(民法239条2項参照)。 しかし、国がそのように認める例がどれほどあるかを考えると、現実的には可能性が低いと言わざるを得ません。
また、国に不動産を「寄付」できるかという点についても、財務省のホームぺージには「行政目的で使用する予定のない土地等の寄付については、維持・管理コスト(国民負担)が増大する可能性等が考えられるためこれを受け入れておりません。」と記載されています。つまり、行政目的で使用する予定のない不動産を国に寄付することも難しいといえるでしょう。
今回のような問題以外にも、相続や不動産のことで悩む方が多いと思います。 そんな時は、お気軽に弁護士にご相談ください。