神戸新聞2018年7月4日掲載
執筆者:大田 悠記弁護士
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私はがんになったので、保険金を請求するために、病院の医師にがんの診断書を作成してくださいと頼んだのですが、書いてくれません。診断書の作成を求めることは可能でしょうか。
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医師の業務については医師法という法律で定めています。
第19条第1項で「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定。さらに第2項で「診察もしくは検案をし…(略) …した医師は、診断書もしくは検案書(略)の交付の求めがあった場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない」と定めています。
すなわち医師は、患者の診察をし、その患者から診断書の交付を求められたときは、「正当の事由」がなければ、診断書の作成・交付を拒否することはできないと、法律で決められているのです。
裁判例では、医師の所見と異なる内容など虚偽の内容の記載を求めた場合、患者や第三者に病名や症状が知られると診療上重大な支障を生じる場合などを、診断書の作成を拒否できる「正当の事由」として判断しています。
相談のケースでは、診断書の作成を求められている病院の医師が、がんの診断をされた先生であれば、相談者の診断書作成を拒否する「正当の事由」があるとは考えられず、診断書の作成を求めることができるといえます。
一方、診断書の作成を求めた病院の医師が、相談者のがんの診断をした先生でなければ、必要な検査やカルテなどを見てもらい、診断をしてもらった上で、診断書を作成してもらうことになるでしょう。
このように、患者を診察した医師には、「正当の事由」がない限り、診断書の交付義務があります。とはいえ、がんの診断をしていない医師に、保険金請求のため、診察なしに診断書の作成を求めることは、その医師にも診断書の作成を拒否する「正当の事由」があるといえるでしょうから、注意が必要です。
相談の事例であれば、がんの診断をされた病院の医師に、診断書を作成してもらうのが、最もよい方法だと思います。