神戸新聞2018年5月16日掲載
執筆者:金井 周一郎弁護士
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私は、自分で購入して15年間乗り、大切にしていた車が追突されました。相手からは車両の修理費の方が車両時価額よりも高く、経済的全損になると言われました。修理費を請求できないでしょうか。
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相談の事案では、相手方に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をすることができます。
まず、相手方に車両修理費を請求できるかどうかが問題となります。この点で、
車両の修理費が、事故当時における車両の時価額に新たに車両を買い替える際に要する諸費用を加えた金額を上回る場合(このことを「経済的全損」と言います)、一般的に車両の修理費を請求することはできません。
この場合は、相手方に対して、事故当時における車両の時価額から、事故に遭い、修理前のあなたの車両売却代金(スクラップとして無価値であれば0円)を差し引いた金額を限度として、損害賠償請求することができます。
次に、車両時価額をどのように判断するかが問題となります。最高裁昭和49年4月15日判決では「いわゆる中古車が損傷を受けた場合、その自動車の事故当時の取引価格は、原則として、これと同じ車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離などの自動車を、中古車市場で取得する時に必要とする価額によって定めるべきだ」と判断しています。
交通事故の示談交渉や裁判手続きでは、自動車価格月報(レッドブック)という中古車価格情報専門誌や、インタネットの中古車情報サイトにおける同じ車種の取引情報などを参考にして車両の取引価格を判断し、車両時価額を判断します。
相談のケースで、追突された車両の修理費の方が車両時価額よりも高く、経済的全損となる場合、相手方に対しては、車両時価額に相当する金額を上限に損害賠償請求が認められることになります。それでも、車両を修理する場合、修理費との差額は自己負担となります。
もっとも、相手が契約する任意保険の内容によっては、時価額を超える修理費の負担を認める特約に加入していることもあります。一度、弁護士にご相談ください。