神戸新聞2018年3月21日掲載
執筆者:明石 恵典弁護士
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夫と私 (子2人) が別居しました。私には収入がなく、夫の給与口座は私が管理しているので別居後、給料全額を私と子どもの生活費に使いました。 夫から返還を求められましたが、支払う必要はありますか?
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別居後、妻が夫名義の口座に振り込まれた夫の給料を生活費として使った場合、離婚する時の財産分与の金額に影響することがあります。
離婚する場合、夫婦の一方は相手方に対して財産分与を請求することができますが(民法768条)、その際、夫婦が協力して財産を成すことができた最後の時点である別居時の財産を基準に分与額を定めることが多いです。このため、別屋後に夫婦の一方が財産を使ったとしても、別居した時点でその財産があれば、それが存在するものとして財産分与の金額を計算することになります。
例えば、別居時に夫名義の預金口座に200万円あり、別居後に妻がここから30万円を使って現在の残高が170万円になったとします。この場合、別居時に存在した200万円があるものとして財産分与の金額を計算します。
そして、夫婦の財産が2 00万円しかない場合、夫婦はこの2分の1に当たる100万円ずつを取得することになりますが、妻が使った30万円については、既に妻が取得したものとみなし、夫から残りの70万円の財産分与を受けることになります。
また、別居中でも、夫婦はその収入などに応じて婚姻から生じる費用(婚姻費用)を負担する義務がありますので(民法760条)、妻は夫に別居中の婚姻費用の負担を求めることができます。
もっとも、このケースでは、夫の給料は夫婦を含む家族全体の生活費です。別居後、妻が生活費として夫の給料全額を使ったとしても、妻と子どもの生活費以外に使用したと認定されれば、財産分与の際にそのことが考慮され、分与額から差し引かれる可能性があります。
このように、離婚の問題は、一見簡単そうに見えますが、財産分与や婚姻費用をはじめ、複雑な問題を多数含んでいることが多いのです。離婚を考える際にはまず一度、お近くの弁護士に相談をすることをお勧めします。