神戸新聞2018年2月7日掲載
執筆者:吉谷 健一弁護士
-
私は年金暮らしの75歳男性です。証券取引の経験はなかったのですが、証券会社から「必ずもうかる」と言われ、言われるままに何十回も取引し1年で約4千万円の損失が出ました証券会社の責任は問えますか?
-
取引の自己責任を問うには、合理的な判断ができる能力や情報が投資家に備わっている必要があると考えられます。このため法律では、投資家保護のために、証券会社が果たすべき義務や規制を定めています。例えば、証券会社は顧客が自己責任で判断できるよう、取引のリスクを顧客が具体的に理解できる説明をする義務を負っており(説明義務)、これを果たしていたかどうかが問題となります。
また、高齢者を危険な取引に勧誘することも疑問です。証券会社は勧誘の際、その顧客が金融商品の性質に照らし、十分な知識、情報収集・分析、判断能力、経験、財産があるか、顧客の投資目的に沿っているかを調査しなければなりません。これが十分でない場合や、金融商品が投資目的と異なる場合、勧誘自体が禁じられます(適合性原則)。
これまで取引経験のない相談者が、4千万円もの損失が出る取引をする知識や経験があったとは考えにくく、生活資金である貯蓄を使ったかなど他の事情も踏まえて、「適合性原則」違反でなかったかを考えることになります。
さらに、「必ずもうかる」という説明は、「断定的判断の提供」として禁止されています。また、証券会社が顧客の口座を支配し、信頼を乱用し、証券会社の利益を図ることを目的として、過度な取引をさせることも違法とされています。
証券会社にこれらの義務違反があると認定されれば、損害倍賞責任を追及するなどして損失を取り戻すことができます。投資被害に遭われた方は、お近くの消費生活センターや弁護士会にご相談ください。