神戸新聞2017年10月18日掲載
執筆者:伊藤 彌弁護士
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父親が亡くなり、実家の土地と建物を兄と私で2分の1ずつ相続することになりました。実家は空き家で、固定資産税や不動産の管理費は私が負担しています。 兄にも負担を求めたいのですが、可能でしょうか?
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被相続人が亡くなり、相続が始まったときは通常、相続人の間で遺産分割協議 を行います。そして、遺産に不動産が含まれている場合には、遺産分割協議が終わってなくても、不動産について固定資産税や管理費用の負担が生じることになります。ここで、もし不動産を単独で使用している相続人がいれば、その人がそれらの費用を全て負担すべきとも考えられますが、今回のように空き家である場合には、誰がどのように遺産の管理費用を負担するのかが問題となります。
まず、民法では、相続財産に関する費用はその財産の中から支弁するとされているので(民法885条)、遺産の管理費用も、相続財産に関する費用として相続財産の中から支出することができます。ここでの遺産の管理費用には、固定資産税、地代・家賃、火災保険料、上下水道料、電気料金、土地改良費・管理費などが含まれるとされています。 しかし、遺産として現金がない場合や、相続人の間で争いがあり、遺産分割前に遺産の一部をお金に換えることができない場合には、相続財産から支出することはできません。
この場合、共同相続人がそれぞれの法定相続分に応じて管理費用を負担することになります(民法253 条)。従って、固定資産税や管理費用を全額負担している相続人は、他の相続人に法定相続分に応じた割合で費用負担を求めることができます。
もっとも、他の相続人が任意の支払いに応じない場合には問題が残ります。遺産管理費用は、相続開始後に生じた債務負担であって、遺産とは性質が異なるため、原則として遺産分割協議の対象にはなりません。共同相続人間で、管理費用の額が確定しており、これを含めて遺産分割調停で解決するとの合意がある場合は、遺産分割調停での解決も可能とされています。ただ、その場合でも、遺産分割調停が成立せず審判となった場合には、遺産管理費用は審判対象になりません。この場合は別途、民事訴訟などによる解決が必要となります。