神戸新聞2017年7月19日掲載
執筆者:小森 祐輔弁護士
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祖母の家に1歳と3歳の子どもを預けていたところ,子どもが祖母の家の花瓶(時価10万円相当)を壊してしまいました。私に,祖母に対する賠償責任は発生するのでしょうか?
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1歳と3歳の幼児は,自分の行為の是非を判断できる知能を備えていません。民法では,このような未成年者が他人に損害を加えた場合,その未成年者は損害賠償責任を負わないとしています(民法712条)。
ただ,未成年者自身が責任を負わない場合でも,その未成年者を監督する義務を負う者は,当該の未成年者が他人に加えた損害を賠償する義務を負います(民法714条1項本文)。親権者は,子どもを監督する法律上の義務があることから(民法820条),原則として子どもが他人に加えた損害を賠償する義務があります。
もっとも親権者が監督義務を怠らず,またはその義務を怠らなくても損害が生じたことを立証した場合は,損害賠償責任を負わないとされます(民法714条1項ただし書き)。実際には立証は極めて困難です。本件では,相談者が祖母に対して,幼児が危険なものに触れないよう十分に注意喚起していたなどの事情を立証しない限り,相談者は幼児が壊した花瓶の賠償義務を負うと考えられます。
他方,親権者に代わって子供を監督する者についても,同様の監督責任を負うとされています(民法714条2項)。このケースのように,親権者から依頼を受けて幼児の世話をしていた祖母についても,幼児が危険なものに手を触れないよう,絶えず遊びの動向に注意することはもとより,その周囲に危険なものがある場合には,幼児に注意をしたり,そのものの位置を変えたりするなどの措置を講ずべき義務があると考えられます。
裁判例では,行為で預かった他人の子どもが自分の子どもに損害を負わせたという事例について,子どもを預けた親権者と,預かった親権者双方の監督義務違反を認めたものがあります。 従って,本件についても,幼児を預かった祖母の対応によっては,祖母自身の監督義務違反が認められる可能性があり,その場合には相談者が支払うべき賠償額が減額されると考えられます。