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夫の生命保険金を娘が相続放棄-妻が受け取るには手続き必要-

 神戸新聞2017年7月5日掲載
執筆者:舟引 理真弁護士

 夫と娘1人と暮らしていましたが先日,夫が亡くなりました。夫の生命保険金の受取人は私と娘ですが,娘は生命保険金も相続財産もいらないと言います。娘が受け取る予定の生命保険金を私が受け取るにはどうすればよいでしょうか?

 

相続財産の取得を希望しない相続人は,相続放棄の手続きを取れば,初めから相続人でなかったものとして扱われ,残りの相続人が相続財産を取得することになります。

 また,相続財産について,相続人全員の合意があれば,自由に分割することができますので,相続人全員の合意により特定の相続人のみが相続財産を全て取得することも可能です。そこで,今回の相談で,生命保険金請求権が「相続財産」に含まれるならば,どちらかの方法で,娘の生命保険金を妻が受け取れるようになります。

 しかし最高裁判所は,生命保険金の受取人として特定の個人が指定された場合,保険金請求権は保険契約の効力発生と同時,すなわち被保険者の死亡で,受取人の「固有財産」となり,被相続人の「相続財産」から切り離されると判断しています。

 今回のケースでは,受取人として妻と娘が指定されているので,夫が亡くなった時点で,生命保険金請求権は,妻と娘それぞれの「固有財産」となり,「相続財産」には含まれません。そのため,娘が相続放棄の手続きをしたり,相続人全員で遺産分割協議を行ったりしても,娘が受取人になっている生命保険金請求権を妻が取得することはできません。

 また,下級審の裁判所では,一部の受取人が保険会社に対し,自身の生命保険金請求権を放棄したとしても,他の受取人が当然これを取得することにはならないと判断した例もあります。あくまで,生命保険金請求権は受取人の固有財産で,通常の債権と同様,請求権を放棄すれば,この生命保険金請求権は消滅すると考えられるからです。

 妻が娘の生命保険金を取得するためには,娘から生命保険金請求権の譲渡を受ける必要があり,民法上,娘から債務者である保険会社に対して債権譲渡の通知をするか,保険会社から債権譲渡の承諾を得る必要があります。具体的な手続きについては,保険会社に相談してみてください。

 

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