神戸新聞2017年4月5日掲載
執筆者:平山 純輝弁護士
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横断歩道を歩いていて、赤信号を無視した車に接触し、けがをしました。加害者の保険会社から健康保険を使って治療するよう言われましたが、健康保険を使うことによる不利益はないのでしょうか?
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健康保険を使うかどうかは、治療を受ける被害者本人が選択できます。ですから加害者の保険会社から、健康保険を使うように言われたからといって、必ずしも従う必要はありません。しかし、健康保険を使った方が被害者にとって有利になる場合があります。また、健康保険を使ったからといって不利益を被ることはありません。健康保険を使った方が良い場合の一つ目は、被害者にも過失があるケースです。例えば健康保険を使わず、自由治療の治療費が200万円、その他の損害が200万円で、過失割合が20(被害者)対80(加害者)というケースを想定してみましょう。被害者は加害者から、損害合計の400万円の80%である320万円を支払ってもらえます。そこから治療費200万円を支払うと、手元に残るのは120万円になります。
一方、健康保険を使った場合、治療費が自由治療の約半額の100万円になるとすれば、自己負担額はその3割ですから治療費は30万円になります。この場合は加害者から、治療費30万円と、その他の損害200万円の合計額230万円の80%である184万円が支払われます。治療費30万円を支払うと、手元に154万円残りますから、健康保険を使った方が34万円の得です。
今回の事例は、加害者が赤信号を無視した事故ですから、被害者に過失はなさそうなので、健康保険を使わなくても損をしないケースのようです。
ただ、民事裁判では、被害者でも、赤や黄色信号で横断していたなど微妙なケースでは過失があるとされることもあります。自分で判断せず、弁護士に具体的な事情を話し、判断してもらうのがよいでしょう。
健康保険を使った方が良い場合の二つ目は、加害者が任意保険に加入しておらず、賠償能力がないケースです。最悪の場合、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)からの支払いしか受けられないということにもなりかねません。健康保険を使って、できるだけ治療費を抑えておくのがよいでしょう。