1 事案
貸金業者と借主との間で、約定残債務総額198万9913円につき分割払いをするとの裁判外の和解契約(本件和解契約)が締結されたが、その時点で、利息制限法に従って充当計算した場合の残債務総額は85万314円であったところ、借主は、後の貸金業者の貸金返還請求の訴えに応訴し、本件和解契約は錯誤あるいは公序良俗に反し無効であると主張した。
一審(社簡裁)、二審(神戸地裁)では、和解の確定効を認めて、貸主の請求を全面的に認めた。本件は、これらの上告審判決である。
2 争点
@本件契約が民法695条の和解契約に該当し、確定効を有するか否か。
A本件契約が錯誤により無効となるか否か。
B本件契約が公序良俗違反により無効となるか否か。
3 原審(神戸地裁)
@本件契約当時、貸金業法43条1項のみなし弁済の規定の適用により、上告人の残債務額が確定したものとはいえず、また、その後の上告人の弁済についても不安定な状況にあったという事情の下では、本件契約はそのような被上告人と上告人との間における取引を巡る紛争を早期かつ簡易に解決させるためにやめることを約した、争いを目的とするものであり、本件契約は民法695条の和解契約に該当し、その確定効が及ぶ。
A本件契約締結当時、上告人が制限利率により引き直し計算をした額との間に約100万円もの乖離があることを知らなかったということは、本件契約において争いとなっている目的の1つである残債務額についての錯誤であるから、和解の前提として争わなかった事項に関する錯誤には当たらない。
B本件契約締結の際、被上告人は、約定利率、約定遅延損害金率で計算した残債務額を上告人に提示したが、当時、みなし弁済の規定の適用により上告人の債務額が確定していたものではなかったことなどの事情の下では、被上告人によるかかる行為が公序良俗違反になるものとはいえない。
4 上告審
@約定利率、約定遅延損害金率に基づいて算定した和解契約日における貸金元金の支払い義務を前提として、その分割支払いを定めるなどした本件では、弁済すべき残債務総額は民法695条の「争い」の対象となっておらず、その点について和解の確定効は及ばない。
A和解時の利息制限法に従って充当計算した場合の残債務総額は85万314円であり、和解の前提となっていた残債務額とは大きな差があることから、本件和解契約はその前提事実に錯誤があり、その錯誤の内容に照らすと要素の錯誤にあたるといえ無効というべきである。
和解前に取引履歴の開示を受けたことも、弁護士等に相談したこともなかった借主に、錯誤に基づく意思表示をしたことに重過失があるともいえない。
と判示して、原判決を破棄・差戻すとの判断をした。
B判断無し。 |