◎ 本件は、控訴人の取引全体を見ると損益はプラスであったが、以下の鶏卵100枚の売建の勧誘が故意の不法行為と認定され、過失相殺になじまないとして、1842万円の損金全額と180万円の弁護士費用が認容された事案。
◎ Yは,ストップ高の状態が続いている折柄,相場を操作し,顧客の利益を顧みず,外務員らに指示して顧客に大量の売建を勧誘させ,禁止されているバイカイ付出し方法により,勧誘した売建玉に自己の買建玉を対当させて取引を成立させた後,高価で売り抜け,自己の利益を得ようと企てたものというべく,相場の次第によっては顧客に重大な損害を与えかねないものであり,その企ての一環として,Yからの指示を受けた■■が控訴人に対し「納税資金を作る場を設けた」とか同じような境遇の人を救済するための場を作った」などと確実に儲けることができるかのような言辞を弄し,控訴人をしてその旨信じさせ,本件売建を委託するに至らしめたものと認めるのが相当であり,これは故意の不法行為を構成するものというべきである。
◎ 多数の買建委託者が存在する形となっていることは事実であるが,Yが主張する利益を上げた買建委託玉なるものはいわゆるダミー玉であった疑いが濃く,上記買建の委託者の存在をもって上記認定を左右するには足りないものというべきである。
◎ 過失相殺は,本来文字どおり過失のある当事者同士の損害の公平な分担調整のための法制度であり,元来故意の不法行為の場合にはなじまないものというべきである。
なぜなら,故意の不法行為は,加害者が悪意をもって一方的に被害者に対して仕掛けるものであり,根本的に被害者に生じた痛みをともに分け合うための基盤を欠く上,取引的不法行為における加害者の故意は,通常,被害者の落ち度或いは弱み,不意,不用意,不注意,未熟,無能,無知,愚昧等に対して向けられ,それらにつけ込むものであるから,被害者が加害者の思惑どおりに落ち度等を示したからといって,これをもって被害者の過失と評価し,被害者の加害者に対する損害賠償から被害者の落ち度等相当分を減額することになれば,加害者としては当初より織り込み済みの被害者の落ち度等を指摘しさえすれば必ず不法行為の成果をその分確保することができることになるが,そのような事態を容認することは,結果として,不法行為のやり得を保証するに等しく,故意の不法行為を助長,支援,奨励するにも似て,明らかに正義と法の精神に反するからである。したがって,故意の不法行為の場合,特段の事情のない限り,被害者の落ち度等を過失と評価して損害額の減額事由とすることは許されない。 |