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神戸からの震災報告

神戸弁護士会 前会長 安藤 猪平次

第二 機能回後までの経過

1 震災後の弁獲士会の混乱

(1)震災は1月17日午前5時46分に発生した。
その日まず午前九時ごろ弁護士会館の近隣に居住する男子職員が出勤し、10時30分ごろ自動車で滝本副会長が会館にかけつけた。
その頃、近隣の被災者の強い要望があって会館を被災者に開放した。
入館者はしだいに増加し、一階ロビーから二階通路に広がった。
将来の弁護士会活動に備えて、会議室のある三階のフロアーは閉鎖し、引き続き四階の講堂を開放した。
入館した被災者の人数は六〇〇名以上になった。
 他方、この日は電話が鳴り続けた。
会員からの安否の報告、事務職員からの報告、各方面からのお見舞いや問い合わせ、伝言等、ともかくも会館にたどりついた男子職員三名とかけつけた会員が電話の応対に追われた。
電話による安否の情報や伝言は次々と紙切れに書いて壁にはりつけていった。
この日約10名の会員がかけつけて、水、食料の差し入れもあった。
当日は滝本副会長と事務局長とが夜を徹して警備にあたった。

(2)翌一八日も、電話に始まり電話で終わった。
回線が満杯で外部からの電話もかかりにくく、会員の安否確認のために会館から会員にかける電話もなかなか通じなかった。
そのような中で、ある会員から、事務所のビルの入ロが開かず記録が取り出せないうえに、依頼者との連格もとれないので、二日後に迫った控訴状が提出できないおそれがあり、他にも同様の悩みを持つ会員が居るはずだとの報告があった。

会館に語めた役員は、この日も滝本副会長だけだったので、同副会長は会長名で、日本弁護士連合会に対し、最高裁判所へ不変期間について特段の配慮を依親して欲しい旨申し入れた。
これが対外的に発信した最初の文書である。この文書は机から転落して横倒しになっていたワープロを起こして、床に置いたまま、散乱した書類の上に座り込んで打ったもので、ワープロとファックスの機能が保たれていることが判って、一同大いに喜んだものであった。
この要請に対し、日弁連にはすばやく対応していただいた。

(3)会長との連絡も十分とれず、交通機関も完全に停止していたので、一月二〇日から始まる次年度役員選挙が実施可能かどうか懸念され、会長その他の関係者と連格をとって、選挙を延期すべきかどうか検討した。
しかし、期日を変更しようにも、選挙委員会が開催できないので、とにかく、二〇日から立候補の受付を始める方向で準備をすすめることになった。

(4)1月19日、この日も、会員やその家族及び各事務所の事務員の安否の確認が続いた。電話は相変わらずかかりにくかったが、しだいに被害の全容が判ってきた。会館を訪れる会員も増加し、相互に情報の交換を行った。
皆が登山に行く時の様な服装でリュックを背負い、水、食料を持参し、宿泊者や職員に対する差し入れも増えてきた。
この日、藤井副会長も会館に到着したので、二人の副会長が緊急役員会を開いて次のことを決定した。
[1]神戸市と折渉し、会館内の被災者の早期移動について依頼すること
[2]裁判所、検索庁と折渉し、刑事・民事いずれの期日も相当期間職権にて変更するよう要靖すること。
その結果を会員に周知すること
[3]予定されていた公式行事、委員会活動、常設法律相談、当番弁護士制度はしばらくの間全て中止すること
[4]一月二〇日から始まる次年度役員選挙を予定どおり実施すること。
但し、手続は簡略にし、電話あるいは代理人による届出も受け付けること
[5]当分の間夜間警備のため役員の宿直当番を定めて事務局員とともに宿泊し、男子事務職員と役員とは休日も集合すること

(5)当日午後1時ごろ、前記二名の副会長が神戸地方裁判所長と面談して、会員の職務執行が不能である事態を説明し、一月末日まで全ての事件の期日を一律に延期するとともに、その後の期日に粥しても会員の執務状況に応じて柔軟に対応していただきたい旨申し入れた。
裁判所もその機能を序止しており、職員の手当をして業務再開の手順を検討中であるとのことであった。
そして、全国の高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所に対しても同旨の申し入れを行い、各地の弁護士会にも、神戸弁護士会の会員が相手方代理人の場合、期日の変更等に協力していただくよう所属会員に周知して欲しい旨の依頼をした。
実隙、この頃には、ピルが壊れて事務所に出入できず、訟定日誌も記録も取り出せなかったり、電話が通じなかったり、交通機関がなかったり、事務機器が破損したりして、会員の万から期日の変更申請書を出すことも困焦な状況にあった。

(6)この日の夕方吉井副会長が会館に到着した。
その頃、神戸市から電話があって、市役所の二号館が使用不能となったため、当分の間市の法律相談は中止すること、被災者のために法律相談をする必要があるが、市としては体制がとれないから、弁護士会で相談のためのホットラインを開設するなら、市としても広報等で協力したい旨申出があった。
しかし、神戸市内の法律事務所は全て機能を停止しており、到底その要請に応えられる状況ではなかった。
念のために、川西市、宝塚市、伊丹市など被害の少ない自治体に照会したところ、常設法律相談を続ける意向であることが判ったので、それらの市に近接する大阪弁謙士会に協力を要請し大阪から出向いてもらうことになった。
同様に、淡路地区の各自治体には、徳島弁護士会に相談員の派遣を要請し、快諾を得た。

(7)翌二〇日には、石井副会長も会棺に到着し、副会長全員がそろった。さっそく副会長2名が徒歩で神戸市を訪問して、弁護士会贈の避難者を早い時期に他の避報所に移動させる対策を申し入れたが、神戸市当局も混乱していて具体的な解決策は見い出せないまま、検討を依頼するにとどまった。
この日、とりあえず、日本弁護士連合会に第一回目の被災状況の報告を行った。また、選挙の告示を会館内に掲示して、次年度役員の選挙手続を執行した。

(8)21日、22日は土日の休日ではあったが、相変わらず電話や人の出入りが多く、休息どころではなかった。
この日、倒壊した事務所・自宅に置いてある記録や預かり文書について、盗難の不安を訴える会員があったので、神戸地方検察庁に被災会員の名簿を添えて警備方を依頼した。
後日、同検察庁から警察官の警らをひんぱんに行うよう手配した旨の回答があった。

(9)1月23日(月)の早朝に会長が会館に到著し、この日から女子職員3名も出勤した。
事務室も少し整理されて、ようやく執務態勢が備わった。
この日の役員会議で次のことが決定された。
[1] 会員の事務所の機能回復が当初の予測よりかなり遅れそうなので、裁判期日の変更を求める期間を1月末日からさらに延期するように裁判所へ申し入れること
[2] 中央区役所の災害対策本部を訪問して、会館の避難者が移動できる市の施設の提供を要請し、会館の機能回復に努めること
[3] 緊急会員集会を1月25日に開催し、会員の被災状況や震災後現在までの弁護士会活動の経過を報告するとともに、今後の対策について意見交換すること
[4] 事務局態勢を確立するために、事務室の整理をさらに進めること
[5] 会員の安否の確認をさらに徹底すること
[6] 日弁連、近弁連への報告に努め、協力依頼をすること
[7] 会館での作業に協力可能な会員の名簿を作成し、宿直や昼間の活動に協力依瀬をすること

(10)この日、神戸地方裁判所長に面談するとともに、全国の高裁、地・家裁宛に、裁判期日の取扱いについて2月になってからも柔軟に対応されたい旨再度要請した。
この要請に対しては、後日裁判所から2月3日までは職権で期日変更し、その後も弾力的に運用する旨の回答があった。但し、身柄拘束の刑事事件については早期開廷に協力されたい旨依頼を受けたので、刑弁センタ-の協力態勢を確認して、この申入れを了承した。
この日、1月25日に賢急会員集会を開催することをファックスにて会員の事務所宛送付したが、事務所が機能している所はほとんどないので、実際には、口こみや電話による連絡に努めた。

(11)また、予定どおり次年度会長、副会長等の立侯補があって、23日午後5時に届出どおり、田辺重徳次年度会長をはじめ全ての次年度役員が決定した。
当白は選挙委員会委員長が口頭で当選が確定したことを会館に居合わせた候補者に告知し、その場に居合わせた会員がお祝いの言葉を述べただけで、例年行われていた当選証書の交付、祝賀会などの行事は一切省略された。
選挙手続は簡略であったが、その時から、次年度役員も現役員と活動を共にすることになった。

2 震災法律相扶の開始

(1)1月23日には、神戸市の関係者が弁護士会に来会されて、電話による震災法律相談を至急に始めて欲しい旨の申出を受けた。
会員の事務所の態勢も弁護士会の事務態勢も不十分ではあったが、我々としてもこの要請に積極的に応じるとともに、電話相談だけでなく、早い時期に面談による法律相談も始めることにした。
そして、同月二四日には、新旧役員が手分けして、法律相談の実施計画の作成と実施後の相談担当者の募集に努めた。

(2)25日には、第1回緊急会員集会を開いた。交通の途絶した状況のなか、120名以上の会員が集合し、3階の会議室に入り切れない程であった。
ぞくぞくと会館に集合してきた会員は相互に安否を確かめ合って安堵した様子であった。
参加者にネクタイを付けたスーツ姿は一人もなく、全員がジャンバーや登山服にリュックサックを背負い、キャラバンシューズ等で歩き易い服装である。
誰もが長い距離を歩いて会館に到着したのであった。
集会では、当日までの弁護士会活動や、会員の安否情報を報告した後、新旧役員をもって構成する災害対策本部を設置することを決定し、法律相談の実施に向けて活発な意見交換と相談参加者名簿の作成が行われた。

(3)そして、いよいよ26日から弁護士会館で、3本の電話による緊急法律相談を開始したが、その日から法律相談の電話は鳴り続けて、相談担当者は休む暇もなかった。それに引き続いて次々と各地域で面談による法律相談も始めた。
そして、面談による法律相談を弁護士会館で始める計画が具体化してから、相談室のある2階の避難者に4階と1階ロビーに移動してもらうことになった。

(4)1月31日には、土屋日弁連会長、稲田事務総長等の一行が近弁連各地の会長と合流して、震災の跡の生々しい神戸を訪問され、徒歩で新神戸駅から東門筋の飲食店街や三宮のビル街の損壊の状況等を視察していただいた。
その後当会館でお見舞の言葉と義援金を頂き、引き続いて、当会会長が自らの被災体験を報告しながら、今回の震災の重大さを訴え、復興に向けて日弁連の全面的な協力を要請した。

(5)神戸弁護士会では、震災の日から当番弁護士制度を当然の如く中断したが、姫路、豊岡、明石、尼崎の各支部では独自に活動を続けていた。
大阪から交通機関のある伊丹市、川西市、宝塚市、三田市の各警察署については、大阪弁護士会の刑弁センターに出動協力を依頼し了承を得たので、1月31日関係各署にその旨通知した。

(6)2月3日に第2回緊急会員集会を持った。
各地で被災者のための法律相談を実施していて出席できない会員も多いなかで、100名以上の会員が参加した。
法律相談の現状と、日弁連会長との懇談会について報告した後、神戸弁護士会厚生規定に基づいて、自宅や事務所が全壊した会員に対し見舞金を支給すること、次期司法修習生を積極的に受け入れる努力をすること等を確認し、災害復興のため長期的視野に立った諸活動を始めるための意見交換を行った。

(7)それまで、役員と男子事務職員が休日も出勤し毎日交替で宿直していたが、副会長や男子事務機員の疲労が極限に達してきたので、警備会社に夜間及び休日の警備を依頼して、同月7日以降は、役員や男子職員による休日出勤と夜間宿直を中止した。
そして、8日に水道も復旧し、10日には常議員会を予定どおり開催するなど、神戸弁護士会の機能もしだいに回復していった。

3 復興対策問題の検討

(1)そのような状況の中で、復興対策に取り組む余裕が生じ、2月22二日に人権擁護委員会、司法問題対策委員会、総合法律センター、公害対策環境保全委員会等関連委員会等の委員による意見交換会を開催した。
その席上で、役員から「復興に関する緊急要望書案」が提案され、参加者の熱心な討議を経て、さらに内容を充実した上で公表することになった。
これを受けて、「阪神・淡路大需災被災地復旧・復興に関する緊急要望書」を作成し、3月1日記者発表するとともに内閣総理大臣、兵車県知事、神戸市長宛に要望書を送付して執行した。
この要望書が、その後の当会の震災復興に向けての諸活動の出発点となった。

(2)2月下旬の役員会で、3月1日から全ての委員会活動と当番弁護士制度の活動を再開して、業務を通常どおり遂行することを確認した。
それとともに、新年度に新役員のもとで、本格的な震災復興対策本部を発足させることにした。
そして、とりあえず、震災復興対策本部設立準備会で、すみやかに粟災復興問題に取り組む準備に看手することとなった。
3月3日には、さっそく準備会を開催し、当面のプロジェクトチームとして、法制度等対策専門部会と復興街づくり対策専門部会を設けて、対策本部の発足に備えて組織作りと調査研究活動を始めた。

(3)3月6日ごろには、会館内の避難者も100名近くに減少したので、1階ロビーの明渡しを求め、4階講堂に移動してもらい、同月10日にエレベーターを始動させて、4階の避難者への便宜をはかった。
3月下旬にいたっても会館内の避難者の数は変わらず、会館の明渡しの見通しがたたないので、4月末日までに避難者が他に移動できるように善処して欲しい旨神戸市当局に申し入れているが、いずれにしても、我々としては、避難者が神戸市の説得を受け入れて、各人が移転先を確保して自主的に退去するまで、辛抱強く待つ所存である。

(4)3月下旬を迎えて、会員の法幹事務所の機能もはぼ回復し、それに伴って、弁護士会の日常業務の遂行も正常化してきた。しかし、自宅に被害を受けた会員は、損壊建物の撤去や破損家屋の修理、仮住まいへの転居、家屋の再建準備等雑多な用件に追われて、震災による影響がここしばらく続くものと思われる。
今後の神戸弁護士会の課題は、「震災に関する法律相談の充実」と「復興問題への積極的な取り組み」である。この二つのテーマについては、今後とも、日弁連及び近弁連に全面的に御協力いただきたいので、次に項を改めて、詳細に報告し、会員の理解を求めたいと考える。

第三 震災緊急法律相談への対応

(1)地震発生後は、被災地全体が大混乱に陥り、常設の法律相談は事実上全て中断していた。
震災発生後三日目(1月19日)に、神戸市から常設法律相談をしばらく中止する旨通知があったが、我々としてはこれを当然のことと受けとめていた。
その際、神戸市は、被災者のために法律相談をする必要があるけれども、市としてはそのための体制がとれないから、弁護士会が電話による法律相談を開設するなら、緊急電話の設置や広報に協力する旨の申し出があった。
そのすぐ後で、芦屋市からも緊急法律相談に対応して欲しい旨連絡があった。
しかし、1月19日は、役員も事務職員もそろわず、事務体制がまったくできていなかっただけでなく、会員との連絡も不十分であり、神戸市内の法律事務所の機能の全てが停止している状態だったので、各市の要望に対応することはとうてい不可能であった。

(2)1月20日、念のため、神戸市以外の自治体に常設法律相談の実施の有無を確認したところ、川西市、宝塚市、伊丹市、猪名川町など震災の影響が少ない自治体では、法律相談を続ける意向であることが判った。
そこで、交通の便のある大阪弁護士会に協力を依頼し、大阪弁護士会から各自治体に相談員を派達してもらうことになった。
同様に、淡路地区の各自治体には徳島弁護士会に相談員の派遣を依頼した。

(3)1月23日、神戸市の市長秘書室長と市民相談室の責任者が弁護士会に来会されて、神戸市が実施する電話による法律相談に対して協力して欲しい旨要請があった。神戸市の計画では、比較的被害の少なかった神戸市西区の神戸外国語大学構内に電話による総合行政相談センターを設け、土地家屋調査士、税理士による相談や行政による相談とともに、弁護士による法律相談も実施することになっていた。
しかし、当時の状況で、毎日10名以上の弁護士を外部の相談所に確実に派遣することができるかどうか極めて疑問だったので、当初は消極的な意見もみられたが、役員や会館に居合わせた会員でいろいろと協議している内に、法律問題に直面している多くの市民の要望に応えていくのが、弁護士会に課せられた使命であり、そうすることによって、我々も災害復興の一翼を担うことが可能となるという点で認識の一致をみて、困難な中においても、電話相談をできるだけ早く実施することは勿論のこと、すみやかに弁護士会館で面談による法律相談も行うべきであるとの結論に達した。
但し、相談員を確保し、相談員のローテーションをコントロールするためにも、また、将来弁護士会館で面談による法律相談を実施するうえにおいても、神戸市の企画する電話による法律相談も、弁護士会館で実施する方が望ましいという意見が強く、神戸市にその旨要請して、計画の一部を変更してもらうことになった。

(4)翌24日、さっそく「震災非常時法律相談要領」を作成し、以下のとおり実施・万針を定めた。
[1] 電話による法律相談(ホットライン)
1月26日から開始し、電話3本で土・日曜日も実施する。
相談時間は午前9時から午後五時までとして、相談者1人で2時間を担当する(1日計12名)。
[2] 面談による法律相談
2月1日から開始し、土・日喝日は休みとする。神戸弁護士会館2階相談室で午前11時から午後4時まで、3室~4室(1日6~8名)で実施し、相談料は無料とする。

(5)それと同時に、役員とボランティア会員とが手分けして、相談担当者の確保と担当日時の割当に奔走した。そして、25日に開催された緊急会員集会で、法律相談を実施するにいたった経過と実施計画とを説明して、会員の協力を呼びかけて相談担当者の確保に努めた。
勿論、当会会員だけでは担当弁護士を確保できないことが十分に予測されていたので、大阪弁護士会にも相談担当弁護士の派遣を依頼して協力を要請し、その後今日にいたるまで、大阪弁護士会及びその他の近弁連単位会からは、多大な擾助をうけてきている。
兵庫県内の法律相談所に派遣していただくことになった。また、全国の会員から、ボランティアとして法律相談を担当したいという申し出が、従前からたくさんあったので、弁護士会館に別途2つの相談室を用意して、いつにしてもボランティア会員の希望を受け入れられる態勢を整えた。
3月中旬ごろまでは相談希望者が多く、昼過ぎには相談者の受付けを打ち切っている状況であったが、3月下旬になると相談件数が減少する傾向がみられ、今後震災に関する法律相談がどのように進展するか予測し難い状況である。

第四 震災復興対策活動

1 緊急要望書の公表

(1)我々は、日々の震災法律相談を担当する中で、被災市民の苦悩や窮状に接し、あるいは、自ら同じ被災地で生活する立場にあって、緊急に改善しなければならない課題が山積していることを切実に感じていた。
そのような状況にあって、神戸弁護士会としても、弁護士会の見解を行政の対応に反映させるため、何らかの形で意見表明をすべきであるとの声が、会員の中であがっていた。
しかし、役員は法律相談の運営や弁護士会の機能の回復等、日々直面する問題への対応に迫られており、委員会活動は停止したままであったので、復興に向けての対策問題にはなかなか取り組めなかった。

(2)2月初旬当時、避難所で避雑生活を余儀なくされている市民はまだ20万人を超え、当会館にも200名近い避難者が生活していた。
街の中には、いたる所に倒壊した建物がそのまま手つかずに放置され、破壊しつくされた街並みが随所に広がっていた。
その一方で、都心の建物や幹線道路沿いのビルの無秩序な解体作業が急速に進められ、大量の粉塵をまきちらし、その中にはアスベストを含む粉塵が大量に含まれていた。
明らかに、二次的な健康被害が懸念される状況にあった。
また、神戸市その他の自治体において、都市計画の地域指定が公表され、その具体的な計画内容も不明のまま、復興計画が歩み始めていた。
被災市民はライフラインの復旧がはかどらない中で、罹災証明書の申請あるいは義擾金の申請等のため、連日区役所の窓口に長蛇の列をなし、電話や各地で行われる法律相談に殺到して、借地借家問題、雇用問題など深刻な悩みを打ち明けていた。

(3)そのような被災地の実状の中にあって、法律相談も軌道に乗り、神戸弁護士会の機能も徐々に回復してさたので、我々も、2月中旬ごろようやく長期的展望に立った震災復興に取り組むことができるようになった。
そこで、災害対策本部では、急遽市民の視点からみて行政に要請すべき当面の諸問題を検討することになった。
そのような問題を検討するために、2月22日に、人権擁護委員会、総合法律センター運営委員会、司法問題対策委員会、公害対策環境保全委員会、広報委員会など、関連委員会の正副委員長を中心とする約30名の会員が参加して、意見交換会を持った。その会合に、災害対策本部で作成した「緊急要望書(案)」が提案され、要望項目毎に熱心に討議された。
関連委員会委員による意見交換会で検討された結果を取り入れて、さらに災害対策本部で討議を重ね、2月28日に「阪神・淡路大震災被災地復旧・復興に関する緊急要望書」を確定し、翌3月1日に内閣総理大臣や、兵車県知事、神戸市長等各自治体の長宛送付して執行した。あわせて、同日記者発表を行ってこれを公表した。

(4)この緊急要望書は、当会が早急に改善を求める現在の課題と、長期的展望に立って将来対策を要すると考えた課題について、当会の基本的な見解を表明したものである。
しかし、この見解はいまだ抽象的で思いつきの領域に止まるものであって、その内容をさらに充実させ具体化するためには、今後引き続き調査研究しなければならず、我々もそのことを十分に認識していたので、この意見表明を機会に、長期的視野に立って震災復興問題に取り組む体制をつくる気運がたかまってきた。

2 震災復興問題への取り組み

(1)2月22日に開催された災害対策関連委員会意見交換会において、震災からの復興に取り組む震災対策本部を設立することが承認され、その設立日を新年度になって新たな執行部が発足する平成7年4月上旬とすることに決定した。
しかし、復興対策本部を設立してから、問題の検討に取り組んでいては、1ヶ月以上の空白期間が生じるので、ただちに震災復興対策本部設立準備会を設けて、その中で実質的な調査研究活動を開始し、対策本部設立後は準備会の事業を対策本部がそのまま引き継ぐことになった。

(2)3月3日、準備会の第1回会合が開催され、当面下記の二つの対策専門部会(プロジェクトチーム)を組織して、活動を開始することになった。
[1]法制度等対策専門部会
借地・借家その他項在直面している種々の法律問題及び紛争処理制度を検討して、対 策・提言等を図る。
[2]復興街づくり対策専門部会
復興のための街づくりの課題を検討し、対策・提言を図る。

(3)この構想は3月10日の常議員会で承認されたので、さっそく専門部会の委員を選任し、3月28日に各専門部会の第1回会合を持って、部会長を選任するとともに、各専門部会の活動方針を決定した。
法制度等対策専門部会では、元原利文会員を部会良に選任し、下記の小委員会を設置して、各課題毎に直ちに調査研究活動に入ることになった。
[1]借地・借家法及び臨時処理法関係
[2]建物区分所有法関係
[3]紛争処理機関関係
[4]破産及び債務者更正制度関係
また、復興街づくり対策専門部会は北山六郎会員を部会長に選任し、まず、行政が提起している現在の都市計画の内容を調査し、資料を収集するとともに、それと並行して、都市計画について研鑽を積むことになり、学習会を企画した。

(4)震災復興に関する諸課題は、時宜を失せず対応しなければならないが、他方で、複雑に利害のからむ難問を含んでいるので、神戸弁護士会単独の活動で、これらの問題に全面的かつ効果的に対応していくことはとうてい不可能なことであり、我々としては、今後、全国の経験ある会員や学者に支援を求めるとともに、日弁連や近弁連と密接な協力関係をもって、諸問題に対応していく所存である。