2018年10月24日付
法務大臣、法務省矯正局長、大阪矯正管区長、神戸刑務所長 宛「勧告」
神戸刑務所に収監された性同一性障害者2名(いずれも生物学的には男性、性自認は女性の事例)に対し、監視カメラ付き独居房に収容する、男性としての髪型を強制する、女性用着衣の使用を制限する、労役場への出入りの際、男性職員による身体検査を実施するなどの処遇が行われています。
このような行為は、申立人らの性自認に沿った扱いを求める権利を侵害するものであると判断し、性同一性障害者が性自認に沿った扱いをされることが当然保護されるべきことが認識され、今後、同様の事態が繰り返されないよう、刑務所収容に際しての振分け基準から抜本的に見直すよう勧告したものです。
2019年1月11日付
兵庫県警察本部長、兵庫県灘警察署長宛「勧告」
知的障害を有する申立人が、勤務先からの帰宅途中に路上にて、灘警察署の警察官から職務質問を受け、その際に警察官は申立人から療育手帳を示され障害の存在を認識し得たにもかかわらず、申立人は路上での2度の所持品検査を受け、灘警察署に移動後も、約1時間半の署内での留め置き・所持品検査・スマートフォンの写真の閲覧・申立人の写真撮影・今後特定の公道を歩かない旨の上申書の作成をさせられました。この一連の流れにおいて、警察官らが障害者権利条約や障害者基本法で求められている障害者の特性に応じた意思疎通の手段を確保すべき配慮が行なわれず、申立人の適正な手続によらない捜査等を受けない利益やその他様々な申立人の人権を侵害したまたはそのおそれがあったと判断し、障害者への相当な配慮を欠いた対応を改めるとともに、障害者権利条約や障害者基本法で定められている研修その他必要な施策を通じて障害者に対する相当な配慮の実施を徹底するように勧告するものです。
2019年8月20日付
警察庁長官、兵庫県警察本部長、明石警察署長宛「警告」
中度の知的障害を有する申立人は、第三者所有の車の側面を叩き、損傷を与えたとして器物損壊事件の被疑者となりました。明石警察署の警察官は、令状を取得することなく申立人の指紋及びDNA採取を行いました。指紋の採取にあたっては同行していた申立人の母親から同意を得ていた可能性がある一方で、DNA採取にあたっては母親を含む家族等の同意を全く得ていませんでした。
令状を取得することなく任意捜査として指紋及びDNA採取を行うためには、本人の同意が必要となります。もっとも形式的に同意があっても、同意をした者が当該捜査により侵害される利益の存在及び内容を正確に理解していなかったのであれば、当該同意は有効になされたとはいえません。
ここでDNA情報は遺伝情報の集合体であり、個人の識別にも用いられる究極の個人情報です。ところが、申立人は、前記のとおり中度の知的障害を有しており診断書によれば「何事においても見守り・指示がないと、自ら動くことはなく、また、自らの判断・決断能力に重大な欠陥が認められる」状態でした。そうすると、申立人は、自らのDNA情報を捜査機関に提供することの意味やそもそも遺伝情報や個人情報といった概念を正確に理解できたとはいえません。
このようなことから、明石警察署の警察官が、令状を取得することもなく、同行していた母親の同意すら得ることもなく、DNA採取を行った捜査は違法であったと判断しました。
そこで、上記のような違法な捜査により取得された申立人のDNA型記録データの抹消・廃棄を求めるとともに、同様の捜査が二度と行わないよう警告しました。
2021年12月15日付
兵庫県警察本部、加西警察署宛「警告」・警察庁宛「勧告」
(1)加西警察署の警察官が申立人の弁明を十分に検証もしないまま複数の警察官が申立人の女性を囲む状態で取調べを行いその際申立人の全所持品に対する事細かい所持品検査を行いその後も身体検査指紋採取写真撮影及びDNA型情報の採取を行った。これらのいずれも申立人の真意に基づく承諾を得たわけでもなくDNA型情報の採取について特段必要性もないなか捜査機関に求められる必要な対応もなされなかった。これらの捜査機関の対応は令状主義(憲法35条)に反し申立人のプライバシー権(憲法13条)を著しく侵害したものとして今後同じような事態が生じないよう任意捜査を行うにあたって捜査機関に求められる対応を実践していくように警告した。
(2)(1)の身体検査指紋採取写真撮影及びDNA型鑑定で得られた申立人に関する情報について兵庫県警察本部からは今後データベースに登録された各情報を抹消する予定はないとの回答を受けたところ取得の違法性だけでなく保有し続けることが許容される理由もなく各情報を登録し続けることは申立人に対する重大な人権侵害であるためデータベースを管轄する警察庁に対して各情報をデータベースから抹消するよう勧告した。
2023年8月3日付
法務大臣、法務省矯正局長、大阪矯正管区長、神戸刑務所長 宛「勧告」「要望」
神戸刑務所に収監中の性自認が女性である男性受刑者(いわゆるMTF・外形変更済の者)に対し、①男性としての髪型(短髪)を強制する、②単独室に収容した上で、平常時・発災時とを問わず限られた職員により管理する南京錠で特別に施錠する、③ホルモン療法の案内が個別に行われていないといった処遇が行われていたことを確認しました。
当会は、2018年にも、性自認に沿った扱いを求める権利に沿って、性同一性障害の受刑者が、性自認に沿った扱いをされるように勧告しておりましたが、今般、改めて、①女性受刑者と同様の髪型を認めるように勧告するとともに、②発災時における安全な避難を確保できる解錠手続の検討、及び、③希望者に対するホルモン療法の個別の案内をそれぞれ要望したものです。
2024年9月25日付
神戸刑務所長 宛「勧告」
神戸刑務所に収監・受刑中の申立人が、刑事事件の再審請求及び付審判請求のため、書面の複写の目的で自弁のカーボン紙の使用を願い出たところ、拒否されました。なお、申立人は右手に震えが生じるため、筆記に困難を伴う状況にありました。
受刑者について、収容の目的や規律、秩序維持等の観点から、自弁を制限することはやむを得ない面がありますが、自弁の物品の使用が法的に保障される権利行使の実質的な内容となる場合は、収容の目的や規律、秩序を害する結果を生じる相当の具体的蓋然性がない限り、自弁の制限は憲法第13条が保障する自由を過剰に制限するものとして、許されません。
申立人が求めたカーボン紙の使用は、再審請求及び付審判請求の棄却決定に対する不服申立てに備えるために必要なことであった上、再審請求等は刑事訴訟法において保障された手続で、その機会は憲法第31条の適正手続の保障の観点から尊重されなければなりませんので、申立人が求めたカーボン紙の使用は、法的に保障される権利行使の実質的な内容であったといえます。
一方で、カーボン紙の使用を認めることが刑務所内の規律や秩序を害する結果を招くとは認められません。
このようなことから、申立人が再審請求等のために自弁のカーボン紙の使用を願い出たにもかかわらず、神戸刑務所がそれを拒否したことは、憲法第13条が保障する自由を過剰に制限するものであったと判断しました。
その上で、同様の事態が繰り返されることのないよう、神戸刑務所に対し、受刑者が裁判手続等に用いるために自弁のカーボン紙を使用することを願い出た場合は、収容の目的や規律、秩序を害する結果を生じる相当の具体的蓋然性がない限り、それを拒否することがないよう勧告しました。