追突事故加害者の対応が不誠実-謝罪求めることは法律上困難 神戸新聞 2016年3月16日掲載
Q:追突事故を起こした加害者の対応が非常に不誠実です。謝罪をしてもらいたいのですが、法律上、認められないのでしょうか。
A:追突事故を起こされ車が壊れた、あるいは、むち打ちなどのけがをしたという場合、加害者に対して、民法709条等に基づき不法行為責任を追及していくことになります。
では、その追及の過程で、法律上、加害者に謝罪を強制できるのでしょうか。そこで、不法行為の効果を規定している民法722条1項と723条の関係を検討してみたいと思います。
民法722条1項は「第417条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する」と規定し、民法417条は、「損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭賠償をもってその額を定める」と規定しています。これは金銭賠償の原則といわれ、現代社会では損害は金銭で償うべきであるという原則です。
これに対し、民法723条は「他人の名誉を毀損した人に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる」と規定しています。名誉は、性質上、金銭に見積もることが困難であり、被害者が賠償を得たとしても毀損された名誉は回復するわけではないので、被害者保護のため、金銭賠償の原則の特則として同条が規定されたものです。
これらにより、法が不法行為の効果として認めるのは、原則として被害者の損害賠償請求権であり、損害賠償は金銭によってなされることになります。 ただし、名誉を毀損された場合には、被害者は、民法723条の「名誉を回復するのに適当な処分」として、謝罪などの名誉回復処分を加害者に対し命じるよう裁判所に求められます。
本件の場合、加害者の対応が不誠実であっても、追突事故により相談者の名誉が毀損された訳ではありません。したがって、加害者に金銭賠償を求めることはできますが、法律上、謝罪を求めることは難しいと思われます。