偽造された遺言-遺言は無効、偽造者は相続欠格 神戸新聞 2011年4月19日掲載
Q:父が亡くなった後、兄から遺言を見せられました。しかし、後日になって兄が偽造したものと分かりました。
この場合、遺言はなかったものとして、兄と遺産分割協議をすることになるのでしょうか。
A:まず、偽造された遺言は無効です。他に遺言があれば、それが有効になりますが、なければお父さんは
遺言をしていないということになります。
相続人が一定の行為をした場合、相続欠格者として相続人となる資格を失います(民法891条)。
遺言書を偽造したお兄さんの行為は、この欠格事由にあたるでしょう(同条5号)。
その場合、お兄さんは相続欠格者としてお父さんの遺産を相続する権利を失います。
ただし、お兄さんが相続欠格者になったことにより、あなたを含む他の相続人の相続分が必ず増えるわけでは
ありません。お兄さんにお子さんがいる場合、お兄さんの相続分はそのままそのお子さんが受け継ぎます
(代襲相続・民法887条2項)。
今後の手続についてお話しします。
お兄さんを欠格者とするため、特別な手続が必要というわけではありません。
実際は、お兄さん(やそのお子さん)を含めて遺産分割協議をおこない、その中で、遺言が偽造であり無効で
あることと、お兄さんが欠格者であることを主張していくことになるでしょう。
この遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることになります。
ただ、お兄さんが欠格者かどうかは争いになることが考えられます。遺産分割協議の前に、地方裁判所へ
相続権不存在確認請求の訴えを起こし、お兄さんが欠格者だということについて裁判で確定しておいた方が
良いかもしれません。
お兄さんが欠格者になっても、遺産分割協議などによりお兄さんに遺産を取得させることは可能です。
しかし、お兄さんは欠格者として相続権を失っていますので、法的にはあなたや他の相続人から贈与する
ということになるでしょう。