敷き引き特約-消費者契約法違反なら無効 神戸新聞 2010年4月20日掲載
Q:「賃貸物件の敷き引き特約 無効と判決」という新聞記事を詠みました。
私が住んでいる物件でも、退去時に敷き引きがあるのですが、無効と考えて良いのでしょうか。
A:賃貸物件の借り主による賃料不払いや建物の損傷などの契約違反に備え、家主の損害などを担保するため、借り主が家主にあらかじめ差し入れておくのが敷金です。
家主は、賃貸借契約が終わり、借り主が家主に建物を明け渡したとき、敷金から不払い賃料や原状回復費用などを差し引いた額をそのまま借り主に返さなければなりません。
ところが、特約で敷金のうち一定の金額や割合について一律に借り主に返さなくてよいとする場合があります。これが敷き引き特約です。
敷き引き特約があると、借り主に何の落ち度がなくても戻ってくる敷金が減ることから、このように借り主に不利益となる特約の合理性が問題となり、裁判でも敷金特約を無効とする判決が出ています。
しかしながら、敷き引き特約がすべて無効になるわけではありませんので注意が必要です。
また、たとえ敷き引き特約が無効と判断される場合でも、敷き引き額全額について無効とせずに不適正な部分のみを無効とする判決もありますので、すべての敷金が戻ってくるとは限りません。
敷き引き特約が無効となるのは、主に消費者契約法に違反する場合です。
そのため、まず、消費者契約(賃貸業を営む家主と個人たる借り主との契約)であることが必要です。
次に、信義誠実に反して消費者の利益を一方的に害するものであることが必要です。
これについては、敷き引き特約の内容(敷き引き額と家賃との比較、敷金に対する敷き引き額の割合、賃借期間の考慮の有無など)、契約の際の十分な説明の有無、契約後の事情(実際の賃借期間、借り主が責任を負うべき損傷の有無)などから総合的に判断されることになります。
具体的にご自分の敷き引き特約が無効となる可能性があるかどうかについては、弁護士に相談されるのが
よいでしょう。