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くらしの法律相談(2008年-2016年)

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2010年 神戸新聞掲載『くらしの法律』相談

兄の子に金を盗まれた-身内で生じた窃盗は刑免除 神戸新聞 2010年3月16日掲載

執筆者:礒野 元弁護士

Q:18歳になる兄の子供を、私の家に住まわせていましたが、その子が現金100万円を盗んで行方不明です。
警察に処罰を求めることができますか。また、親権者の兄夫婦に返還を求められますか。

A:警察に処罰を求められるかという点について、刑法は、他人の物を盗む行為を窃盗罪として、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と規定しています。
 事例では、同居していた兄の子供(以下A)が100万円を盗んだわけですから、Aの行為はまさに窃盗罪に当たるということになります。
 一方で刑法は、親族間で起きた窃盗の処罰に関して、特別の規定を設けています。
具体的には、配偶者、直系血族、同居の親族との間で生じた窃盗については、刑を免除するとしているのです。
 なぜこのような規定が置かれているかというと、法は家庭に入らない、家庭の問題は家庭内で解決させるべきであるとの配慮に基づくものとされています。
 従って、Aの行為は窃盗罪に当たるものの、刑が免除されることになりますので、警察に処罰を求めることはできません。
 次に、親権者の兄夫婦への返還請求という点ですが、確かに兄夫婦の子どもを住まわせていたのに大金を盗まれたわけですから、子の監護義務のある親権者に返還を求めたいというお気持ちも分からなくはありません。
 しかし、親権者と言えども、子どもとはあくまで別人格ですから、特別な規定がある場合は別にして、兄夫婦が責任を負うのは、兄夫婦自身の過失が認められる場合に限られます。
兄夫婦はAと別居しているため監督が困難であり、Aは18歳で十分な判断能力を有する年齢ですから、兄夫婦の過失が認められる可能性は低いでしょう。
 なお、未成年者が自分の行為の責任を理解する知能を有していない場合は、親権者の責任が
加重されています。
例えばAが幼児の場合、兄夫婦がその義務を怠らなくても損害が生じていたことを証明しない限り、責任を免れないとされています。