「不倫に対する慰謝料-夫婦関係の実態ポイント」神戸新聞 2007年6月5日掲載
執筆者:森川 拓弁護士
Q:1年前から私は上司と交際しています。上司は妻帯者ですが、交際を始めるときに、「形だけの夫婦関係で、10年以上別居中。妻も交際中の男性がおり、問題ない」と聞かされました。
しかし、先日、上司の奥さんから、「あなたに対して慰謝料を請求する」と言われました。支払わなければならないのですか。
A:結論から言えば、上司の言っている夫婦関係が本当ならば、慰謝料を支払わなくてもよい可能性が高いといえます。ただ、上司がうそを言っているなら、あなたは慰謝料を支払わなくてはならないでしょう。
夫婦には互いに不倫してはならないという義務があります。つまり、夫が不倫した場合、妻は夫に対して慰謝料を請求できます(離婚も要求できます)。
また、このとき、妻は夫の不倫相手にも、夫と一緒に妻の権利を侵害したということで、慰謝料を請求することができます。
ただ、例外もあります。最高裁判所は、不倫前から夫と妻の結婚生活が壊れてしまっている場合(「婚姻関係が破綻している」といいます。)には、原則として、妻(あるいは夫)には守られるべき権利や利益がないから、慰謝料の請求は認められないと判断しました。
従って、上司の言っていることが本当であれば、あなたの交際前から結婚生活は壊れていたと思われますので、慰謝料を支払わなくてよい可能性が高いといえるわけです。
ただし、上司の話す結婚生活は、あくまで上司の視点から見たものですから、誇張がある可能性があります。また、上司があなたと不倫をしたいがために、うそをついている可能性も否定できません。
上司の言っていたことがうそであるとき、あなたは真実を知らなかったのだから、慰謝料を支払う義務はないと思うかも知れません。しかし、あなたは上司が結婚していることは知っていましたし、うそをついたのは奥さんではなく上司ですので、あなたに何の責任もないということは難しいのではないかと思います。
ただ、その場合、不倫関係になったことについては上司の責任が大きいとはいえますので、あなたの慰謝料が減額される理由になる可能性はあります。