「共謀罪-話し合っただけで処罰?」神戸新聞 2006年5月16日掲載
筆者:荻野 淳(弁護士兵庫県弁護士会共謀罪対策4委員会連絡会座長)
Q:最近、共謀罪という言葉を新聞などでよく耳にします。組織犯罪の取り締まりに必要という意見に対して、反対する意見も多いようですが、そもそも共謀罪とはどのようなものなのでしょうか?また、共謀罪のどのようなところが問題なのでしょうか?
A:現在国会で審議されている組織犯罪処罰法などの改正案において、国際的な組織犯罪の取り締まりを理由に、共謀罪の新設がされようとしています。
共謀罪は、犯罪が実際に行われる以前に、関係者が犯罪を起こす合意をした段階から処罰するものです。客観的な行為があって初めて犯罪が成立するという刑法の大原則に反するものです。現在の刑法でも、殺人など特に重大な犯罪については、例外的に、予備的な準備行為があれば処罰されますが、現在審議されている共謀罪は、600以上の犯罪について成立するとされ、戦前の治安維持法以上に、市民生活を広く処罰することになるとの批判があります。
また、そもそも「共謀」の概念はあいまいで、共謀の現場に同席しただけで共謀したとされかねません。
加えて、共謀罪の対象となる「団体」は、マフィアなどの犯罪組織に限定されていませんし、しかも一時的に形成された複数人の集まりをも含むと説明されています。そこで、たとえば、市民団体の構成員の一部の人たちがマンションの建設に反対して現場で座り込みをしてでも反対しようと相談したり、労働組合が徹夜も辞さずに団体交渉をしようと決めるだけで、組織的威力業務妨害罪や監禁罪の共謀罪とされる危険を含んでいます。
共謀罪が導入されますと、「共謀」があったかどうかが問題となりますから、犯罪捜査では盗聴やメールの傍受などが必要になりますし、取り調べにおいても自白を強要したりする恐れがあります。そうなれば、警察が市民生活の隅々まで入り込む監視社会をもたらす危険があるなどの批判もあります。また、自首による刑の減免が規定されていますので、密告などの風潮が強まるおそれもあります。
このような共謀罪が濫用されると、共謀罪法を改廃しようとする言動自体が処罰されることになりかねません。そうなると、共謀罪の暴走は誰にも止められなくなってしまい、自由にものが言えない社会になってしまいます。
国会では与党が法案の修正を提案して、何らかの限定を加えようとしていますが、まだまだ不十分であるとの批判も強く、日本弁護士連合会や多くの市民団体などでは、与党の修正案にも強く反対しています。また兵庫県弁護士会も、共謀罪の新設はもちろん、修正案にも反対する声明を発表しています。(もっとも、報道によると、12日現在も、さらなる修正をめぐって与野党でさまざまな折衝が行われているようです。)
国際的な組織犯罪の取り締まり目的はよいとしても、以上のように多くの問題点を抱える共謀罪については、そもそも本当に国際的な組織犯罪の取り締まりに、共謀罪が必要か、根本までさかのぼった慎重な審議が求められます。