「認知症患者の財産-成年後見制度の積極利用を」神戸新聞 2005年8月16日掲載
執筆者:種谷 有希子弁護士
Q:私の母は、重度の認知症です。母名義の土地と、銀行預金があるようですが、それらを事実上管理してきた父がこのたび、死亡しました。今後は私の兄が管理すると言っているのですが、兄は多額の借金を抱えており、勝手に流用してしまわないか不安です。どうすればよいでしょうか。
A:成年後見制度の利用が考えられます。
成年後見制度とは、ある人の判断能力が十分ではない場合(認知・記憶等に障害のある高齢者、知的障害者、精神障害者など)に、本人を法律的に保護し、支えるための制度です。例えば、本人のために、預金の解約、不動産の売買などをする必要があっても、本人に判断能力が全くなければ、そのような行為はできませんし、判断能力が不十分な場合にこれを本人だけで行うと、本人にとって不利益な結果を招くおそれがあります。そのため、本人の判断能力を補うために援助する人が必要になってきます。このように、判断能力が十分ではない方のために、家庭裁判所が援助者を選び、この援助者が本人のために活動する制度を成年後見制度というのです。
成年後見制度には、本人の判断能力の状態によって、3つの種類(判断能力が全くない場合=後見、特に不十分な場合=保佐、不十分な場合=補助)があります。あなたのお母さんの場合、重度の認知症ということですので、判断能力が全くないとして、後見開始の審判の申し立てをすることになるでしょう。
本人、配偶者、四親等内の親族等が申立てをすることができますので、娘であるあなたも申し立てをすることができます。
あなたが申し立てをして、援助者が選ばれれば、その援助者がお母さんの財産を管理することになります。その場合、お兄さんが、お母さん名義の財産を勝手に流用することはできなくなります。
最近、判断能力が低下した高齢者を狙ったリフォーム詐欺が紙面を賑わせています。もし、成年後見制度を利用していれば、このような被害は未然に防ぐことができた可能性があります。成年後見制度の活発な利用が望まれます。