「社長個人への請求-保証人でなければ回収困難」神戸新聞 2005年1月18日掲載
執筆者:明石 葉子弁護士
Q:小規模な町工場を経営しています。製品を納入した取引先のA株式会社が、うちに代金を支払わないまま、破産しました。しかし、A社の代表取締役社長B氏は、今も高級車に乗るなど羽振りが良さそうです。A社が破産した場合、社長のB氏個人に代金を請求できるのでしょうか。
A:会社は、その代表者とは法律上、別個の人格(法人格)として扱われます。したがって、会社が破産しても、その代表者は会社の債権者に対して責任を負わず、本件でも、B氏に代金の請求はできないのが原則です。
もちろん、B氏個人が本件の取引に関して連帯保証人になっていたり、B氏個人の財産に根抵当権などの担保権を設定していた場合は例外で、代表者個人の財産から代金の支払いを受けることが可能です。もっとも、少額の取引や単発的な取引の場合には、そのような担保をとって商売をすることはまれでしょう。
担保がない場合でも、会社が破たんし、支払いができなくなることが十分に予想できる状態にあったにもかかわらず、製品納入の契約が交わされ、その後会社が破産したような場合には、当時のB氏の経営判断が取締役としての任務懈怠(けたい)にあたることを立証すれば、損害賠償というかたちでB氏から代金相当額の支払いを受けることができる場合があります。
さらに、A社が実質上B氏の個人経営であるような場合(会社組織が単なる形式のみにすぎないような場合)には、A社の法人格は認められないと主張して、B氏個人に責任を追及することも不可能ではありません。
ただ、これらの主張立証は、法的に難しい判断を伴うので、簡単に認められるものではありません。
視点を変えて、「羽振りがよい」というB氏が、破産直前にA社から財産の譲渡を受けていたとか、財産の隠匿行為をしていたような場合には、B氏の行為を裁判で取り消したり、破産管財人に無効を主張してもらうことによって、A社に財産を戻すこともできます。
この場合、B氏に対して直接代金を請求できるわけではありませんが、配当を受けることによって代金の一部を回収できる可能性は高くなるでしょう。