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2004年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「敷引-有効性が争われるケースも」神戸新聞 2004年11月2日掲載

執筆者:上田 孝治弁護士

Q:これまでずっと関東地方に住んでいましたが、転勤で神戸に引っ越してきました。借りることになったアパートの契約書の中に、「敷引」という言葉が書いてありました。関東で家を借りていたときにはこんな言葉は聞いたことがなく、その意味がわかりません。

A:賃貸借契約の際には、家賃の滞納などに備えて、あらかじめ敷金や保証金といった金銭を、借り主が貸主に預けます。これは、借り主の側からすれば預けただけのお金に過ぎませんので、契約が終了して明け渡すときに、未払いの家賃などがなければ全額戻ってくるのが原則です。

ところが、関西地方、特に阪神地域では、敷金・保証金返還の際に、必ず一定額を差し引くことを契約時にあらかじめ決めておくことがあり、これを「敷引」といいます。この場合、敷引後の残額から、さらに未払いの家賃などが差し引かれて借り主に返されます。

これに対し、関東地方などでは、賃貸借契約の際に敷金・保証金とは別に、借り主から貸主に対して礼金というものを払います。礼金は、賃貸借契約を結ぶことの謝礼的な意味を持つものなので、敷金や保証金とは異なり、借り主に戻ってはきません。

具体的に説明すると、「敷金50万円、敷引20万円」と「敷金30万円、礼金20万円」というのは、共に、契約の際に50万円を借り主が貸主に払い、うち20万円については返還が予定されていません。残りの30万円については、未払いの家賃などを差し引いた残額を貸主が借り主に返すことになっています。

もっとも、敷引は礼金に比べて、何のために一定額を差し引くのかが不明確であるといえます。そのため、高額・高率の敷引をされているケースや、予想外の事情で賃貸借契約が終了してしまったようなケースなどでは、敷引の合意の有効性を争う余地がないわけではありません。仮に敷引の合意が無効とされれば、明け渡し時に敷金から敷引分を差し引かれることなく返してもらえることになります。