「遺産の固定資産税-紛争中の分は相続人全員で」神戸新聞 2004年1月6日掲載
執筆者:木村 裕史弁護士
Q:母は多くの不動産を残して5年前に亡くなりましたが、遺産分割の話し合いが着かず、いまだに紛争が続いています。この間、母名義の土地に莫大(ばくだい)な固定資産税などがかかり、私が全額支払っています。遺産分割にあたってこの支払いは考慮されないのでしょうか。
A:亡くなられたお母さまの遺産は、相談者を含めて共同相続人の共同所有となりますから、固定資産税も共同相続人全員で負担すべきものです。
にもかかわらず、相談者が固定資産税全額を負担されてきたというのですから、他の共同相続人に請求されるのは当然です。
現実には、遺産分割協議によって、まず紛争の幹となる部分、どの不動産がどの相続人に帰属することになるのかを確定します。その後、枝葉に相当する部分、すなわちそれぞれの不動産に対する固定資産税分を、誰が負担するかについて協議することになるでしょう。
一般的には、その不動産を取得することになった人が負担するので、その相続人に請求していくこととなるでしょう。
もっとも本件では、お母様の死後5年間、いまだに分割に関する紛争が続いているようです。話し合いで遺産分割できる見通しが立たないようでしたら、家庭裁判所に遺産分割の調停を申立てることを考えてみてはどうでしょうか。
調停の申立ては、相談者一人でできますし、固定資産税を支払ってきたことも考慮のうえ、法律の分割基準に応じて、遺産の分割の調停をしてくれます。
調停が成立しなければ、裁判所は、審判することになります。
しかし、審判では、相続人の同意がない限り固定資産税のことは判断してくれませんので、その時は別途、裁判をしなければなりません。
いずれにしろ、固定資産税を支払ってきたことを明らかにする資料は、あらかじめそろえておくべきでしょう。
なお、相談者から他の相続人に対する請求は10年で時効によって消滅しますから、その点は注意を要します。