「再婚による遺産相続-遺言で意思を明確に」神戸新聞 2003年12月2日掲載
執筆者:中園 江里人弁護士
Q:連れ合いを亡くした者同士で再婚を考えていますが、再婚すると互いに相続人になってしまうという理由で双方の子どもたちが反対しています。私たちは、どちらかが死亡すれば遺産はすべてその子どもで分けてほしいと考えています。再婚の際、この考えを確定させておけないでしょうか。
A:完全に確定させることはできません。しかし、あなた方が遺言をし直さない限り、子どもたちだけに遺産が渡る方法はあります。それは、再婚後に(1)それぞれが「全部子どもたちに相続させる。配偶者には相続させない」という遺言をする(2)それぞれが再婚相手の相続に関する遺留分を放棄する、という方法です。
自分が死んだときに財産を誰に受け継がせるかは、原則として遺言で自由に決めることができます。そこでまず「全部子どもたちに相続させる」と遺言するわけです。
しかし相続人には、遺言によっても奪えない取り分(遺留分)が、法律上認められています。あなた方の場合も、今は「再婚相手の遺産をもらうつもりはない」と考えていても、再婚相手が亡くなった時点で「やっぱり欲しい」と思えば、「全部子どもたちに相続させる」という遺言があっても、遺留分を主張して遺産の4分の1をもらうことができます。
そこで、あなた方があらかじめ互いに遺留分を放棄することで「やっぱり欲しい」という主張をできないようにしておくわけです。具体的には、家庭裁判所に遺留分放棄の申立をして、許可してもらうことになります。
ただ、互いに遺留分を放棄していても、渡す側が「やっぱり再婚相手にも相続させる」と遺言をし直すと、その遺言の効果として遺産が再婚相手に渡ります。この場合、子どもたちに遺留分があるので、新しい遺言が「全部再婚相手に相続させる」という内容でも、子ども全員で遺産の4分の1はもらえます。しかし、相続人が子どもたちだけなら、その遺留分は2分の1ですから、再婚によって子どもたちの遺留分は半分になります。この限度で、あなた方の再婚は、子どもたちの権利を弱めるわけです。
このような事情を説明した上で、子どもたちを説得する必要があるでしょう。
なお、再婚直後に互いに相続放棄をすればよいと思われるかもしれませんが、事前の相続放棄は法律上できません。