「取締役の責任-報酬や出資の有無、影響力で」神戸新聞 2003年4月29日掲載
執筆者:持田 俊介弁護士
兄は小さな工場を経営し、私も取締役に名前を連ねていますが、働いたり報酬をもらったりしたことはありません。最近会社の業績が悪く、債権者の取り立てが厳しくなってきました。私の所にも「取締役なのだから売掛金の責任を持て」と言ってきます。責任を負わされるのでしょうか?
弁護士:なぜあなたの所に取り立てがくるのでしょう。会社かお兄さんの保証人になっているのですか。
相談者:いいえ。でも、兄に頼まれて会社の取締役になり、「売掛金について責任を持て」と言われるのです。
弁護士:工場は株式会社ですか?
相談者:そうです。
弁護士:株式会社は独立した法人であり、買掛金は会社の債務である以上、あなたに支払い義務はありません。でも会社の取締役である以上、職務懈怠(けたい)につき、取引先に損害賠償責任を負う場合もあります。
相談者:経営に関与したことがなくてもですか。
弁護士:取締役には経営する職責のほか、代表取締役を監督する職責もあります。従って、名目的取締役であっても何ら責任が生ずる余地がないとはいえませんね。
相談者:どんな場合に責任を負うのですか。
弁護士:「名目的取締役の責任」については判例も分かれているところです。ただ一般的には(1)取締役として報酬を得たか(2)会社への出資をしているか(3)代表取締役に対する影響力が大きいかなどが基準となります。
相談者:私にはそのようなことはないので大丈夫そうです。ただ、実は父も名目的に取締役になっているのですが、もともと町工場は父の会社であり、今でも会社に対する影響力が強く、報酬ももらっています。父は責任を負うのでしょうか?
弁護士:監督責任が問われるためには、前提として経営者が違法行為をなしたことが必要です。買掛金が通常の取引で生じたものであるなら監督責任を負うことはありませんが、例えば、お兄さんが工場の経営が破綻していることを知りながら、商品を取り込む目的で購入した場合などは、お父さんの会社に対する影響力次第では監督責任が生じる余地があります。