「身代わり出頭-呼び出し通知を運転者に」神戸新聞 2003年3月18日掲載
執筆者:須山 幸一郎弁護士
勤務先の社長は、私が仕事がなく路頭に迷っていたときに助けてくれたので、恩義があります。その社長が先日、高速でスピードを出し過ぎオービスで写真を撮られてしまいました。私所有の車だったこともあり、社長は私に身代わりに出頭するように頼んできました。罰金は出してくれると言います。恩に報いるためにもそうしようかと思うのですが。
弁護士:身代わり出頭は絶対にやめてください。
相談者:でも、雇ってくれた恩義になんとか報いたいのです。警察に出頭して「私が運転していました」と言えばいいのでは。
弁護士:あなたがやろうとしていることは、犯罪行為に当たります。まず、身代わり出頭する行為は刑法の犯人隠秘罪に当たり、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処せられる可能性があります。それから、社長さんに身代わり出頭を頼まれたんですね。
相談者:そうです。
弁護士:身代わり出頭すると、社長さんも刑法の犯人隠秘罪の教唆(そそのかし)に当たり、同様に処罰される可能性があります。出頭しても社長さんの恩義に報いることにならないんですよ。
相談者:出頭しなかったら社長はどうなりますか。
弁護士:出頭しない限り、社長さんに犯人隠秘罪の教唆は成立しません。スピード違反については、処分を受けなければならないですが。
相談者:どうすれば?
弁護士:警察から車の所有者であるあなたに呼び出し通知がきますから、それを見せて警察に出頭するよう社長さんに言ってみてください。
相談者:社長の処分は?
弁護士:警察は社長さんに日時、場所、写真に写っている速度で走ったかどうかなどを確認し、違反切符を切ります。調書もとられるのが通常です。違反が反則行為(一般道で超過30キロ未満)の場合、青切符(交通反則告知書)と反則金納付書が交付されます。
違反が反則行為ではなかった(一般道で超過30キロ以上)ため赤切符(告知票)が交付された場合、交通裁判所へ出頭するよう指示されます。裁判所では、とくに不服がなければ略式の裁判手続により、罰金を払うことになり、前科にもなります。