「未成年者の責任能力-事故の賠償などに影響」神戸新聞 2000年12月13日掲載
執筆者:後藤 友起子弁護士
歩行中、自転車に当てられ、骨折しました。相手は中学生なので、親に損害賠償を請求できるでしょうか。
相談者:通勤途上で歩道を歩いていたところ、後ろか来た自転車に追突され、転倒した際に右腕を骨折してしまい、三日間仕事を休まざるをえませんでした。自転車を運転していたのは中学三年生(十五歳)で、事故の原因は前方をよく見ないでスピードを出していた点にあります。
治療費や休業損害などを請求したいのですが、中学生ですので資力がありません。このような場合、運転者の親に請求することはできるのでしょうか?
弁護士:できる場合があります。
相談者:具体的にどんな場合ですか?
弁護士:第一に、中学生に責任能力(事故の行為が違法なものとして法律上非難され、何らかの法的責任が生ずることを認識できる能力)が認められない場合です。この場合、あなたは当然親に請求できます。条文上は、親は監督を怠らなかったことを証明すれば免責されることになっていますが、実務上は、免責はほとんど認められていません(民法七一四条一項但書)。
第二に、中学生に責任能力が認められる場合であっても、中学生が日ごろから危険な運転を繰り返していたにもかかわらず、親が注意もせず漫然と放置し、監督を怠ったために事故が起きたことを、あなたが積極的に証明した場合です(民法七〇九条)。責任能力の有無により適用される条文が違うのでこのようなことになります。
相談者:今回の中学生には責任能力が認められるのでしょうか?
弁護士:微妙なところですね。裁判例は、十一歳十一カ月の者の責任能力を肯定する反面、十四歳十一カ月の者の責任能力を否定するなど一貫していません。環境など年齢以外の諸要素も加味しているようです。以上を踏まえた上で、あなたも、一度中学生の親に損害を賠償してくれるよう申し入れをし、話し合いをされることをお勧めします。
相談者:直接話し合いをしてまとまらなかった場合はどうすればよいでしょうか?
弁護士:中学生の親の住所地を管轄する簡易裁判所に調停を申し立てるとよいでしょう。
相談者:他に私の被った損害を補てんする手段はありませんか?
弁護士:通勤途中の事故なので、労災を申請されることをお勧めします。ただ、労災から給付を受けた分は、原則として損害額から差し引かれます。