「夫の愛人-妻が慰謝料請求できる」神戸新聞 2000年11月22日掲載
執筆者:栗本 正貴弁護士
長年連れ添った夫に愛人がいることがわかりました。夫は別れると言ってくれましたが、その愛人だけは許せません。何とかなりませんか。
Aさん:最近、夫の留守中に見知らぬ女性から電話があり、不審に思った私が夫を問いただしたところ、夫に愛人がいることがわかりました。大変ショックを受け、食事ものどをとおりません。夫ももちろんですが、愛人は絶対に許せません。その愛人には何の責任もないのでしょうか。
弁護士:お怒りの気持ちよくわかります。妻であるあなたのには、愛人に対して、慰謝料の請求をすることができることに原則的に異論がありません。
Aさん:そうですか。でも、不倫関係を迫ったのは夫のほうだということを聞いたのですが、それでもさきほどの慰謝料の請求はできるのでしょうか。
弁護士:不倫関係が配偶者である夫の誘惑によるものか、逆に愛人の誘惑によるものか、あるいは夫と愛人の双方の自然の愛情によって生じたものか否かにかかわらず、さきほどの慰謝料の請求自体はできるというのが最高裁の見解です。もちろん、不倫に至った事情が慰謝料の額に影響することはもちろんですが。
また、最近では、肉体関係のきっかけおよび継続について夫に責任がある場合に、妻の慰謝料の請求自体を否定した裁判例も見られます。
Aさん:わかりました。あと、夫が愛人と別れてくれましたので、今回は夫とは離婚をしないでおこうと思っております。このような場合も慰謝料の請求自体は可能なのですか。
弁護士:もちろん可能です。慰謝料の請求は、夫婦関係の破たん(離婚)の有無に関係ありません。ところで、あなたたち夫婦にはお子さまがいらっしゃるのですか。
Aさん:はい、二人の子供がいます。子供たちも今回のことで、私と同様かなりのショックを受けております。子供たちも私と同じように慰謝料の請求ができないのですか。
弁護士:うーん。これについては、原則的には認められていません。ただ、愛人の女性が害意をもって、父親の子供に対する監護を積極的に阻止するなどの特別の事情があった場合は、認められることもあります。
Aさん:わかりました。ありがとうございました。