「同乗者の事故-善意でも損害賠償必要」神戸新聞 2000年11月8日掲載
執筆者:古坂 良文弁護士
知人に車で送ってほしいと頼まれましたが、事故でけがをさせてしまいました。損害賠償をしなければならないでしょうか。
Aさん:知人のBさんに車で駅まで送ってくれるように頼まれましたが、スピードの出し過ぎて事故を起こし、けがをさせてしまいました。Bさんに、損害賠償を請求されているんです。
弁護士:お気の毒ですが、スピードの出し過ぎというあなたの不注意によりBさんにけがをさせてしまったのですから、Bさんに対し、治療費や慰謝料などについての損害を賠償しなけらばなりませんよ。
Aさん:けれども、Bさんを駅まで送ろうとしたのは私の善意なんですよ。Bさんは無料で私の車に乗っていたのです。Bさんは私の善意で乗っていたのに、事故になったら損害を全額請求する、というのはあんまりではないでしょうか。
弁護士:Bさんのように無償で同乗することを好意同乗といいます。かつては好意同乗の事実だけで請求額が減額されたこともありましたが、現在ではそれだけで減額されることはまずありません。
減額されることがあるのは、事故について好意同乗者にいくらかの責任を負わせることが公平の見地から妥当だ、という何らかの事情がある場合です。このような事情がある場合にだけ減額を認めるのが最近の判例の傾向です。
Aさん:具体的にはどのような場合があるのですか。
弁護士:判例では、おおむね、運転者の疲労や飲酒を承知で同乗した場合や、運転者がかなりのスピードを出していたのに同乗者が注意をしなかった場合などに減額を認めたものが多いです。
他方、好意同乗者が事故の危険を容認したり増大させたりした、という事情がない場合には、減額は否定されています。結局は運転状況や事故の態様などを総合判断することになります。
Aさん:では、私の場合はどうなるのでしょうか。
弁護士:例えば、Bさんが「列車に遅れそうだから急いでほしい」と頼んだとか、あなたが猛スピードで飛ばすのをBさんが全く止めようとしなかったというような事情があれば、Bさんにも責任を分担してもらうのが妥当ですから、減額は認められるでしょう。