「夫婦の連帯責任-「日常家事」が判断基準」神戸新聞 2000年10月25日掲載
執筆者:小野 郁美弁護士
妻が勝手に、私の名義で高額の指輪を買ってしまいました。私が代金を支払わなければならないのでしょうか。
Aさん:妻が私に全く相談しないで、私の名義を使って、分割払いで百二十万円の指輪を買ってしまいました。結局支払いができずに、私に請求が来ているのです。どうしたらいいでしょうか。
弁護士:それはさぞ驚ろかれたでしょう。これまでに、奥さまがあなたの名義を使って契約をするということはあったのですか。
Aさん:いいえ。私は妻に名義を使うのを任せたことはありませんし、これまでに妻が私の名義を使ったことは一度もありません。私は知らないうちに名義を使われたのですから、私が指輪の代金を払う義務はありませんよね。
弁護士:夫婦の場合は、一方が日常家事に関して第三者と法律行為をした場合、これによって生じた債務について他方も連帯して責任を負うとする条項があります。あなたが、指輪の代金を支払わなければならないかは、指輪を買ったことが日常家事にあたるかどうかで決まります。
Aさん:日常家事とは、どういうことを指すのですか。
弁護士:夫婦が共同生活を営む上で、通常必要とされる一切の事項をさします。食料品や家具の購入、マンションの賃貸借契約の締結、医療費の支払いなどが一般的には日常家事にあたるとされています。
判例で日常家事として認められたものとしては、電子レンジの購入、子供の学習教材の購入などがあります。逆に、日常家事にあたらないものとしては、不動産の処分などが考えられます。ただ、日常家事の具体的な範囲は、その夫婦の社会的地位、職業、資産、収入などと、実際に行われた取引内容との関連で個別的に判断されます。
Aさん:私の場合はどうなのでしょうか。私は普通の会社員で、妻は働いていません。いつも住宅ローンや子供の教育費に追われ、とても百二十万円の指輪を買うような生活の余裕はないのですが。
弁護士:一般的に百二十万円もする指輪を買うことは日常家事の範囲とは考えにくいですし、ご家族の生活状況からしても、奥さまの指輪の購入が日常家事の範囲に含まれるとは考えられません。ですから、あなたが支払いについて連帯責任を負うことはないでしょう。ただ、相手方がその行為が日常家事の範囲内に属すると信じるについて正当の理由があるときには、あなたも責任を負うことがあるので注意が必要です。