「リストラによる解雇 「合理的理由」なければ無効」神戸新聞 2000年2月25日掲載
執筆者:辰巳 裕規弁護士
長引く不況でリストラの波が勤労者に押し寄せています。相談者の女性も経営悪化を理由に、事前の説明もなく解雇を言い渡されました。黙って受け入れるしかないのでしょうか。
相談者:先生、大変なんです。今朝、突然、勤め先の社長から「うちの会社は不況で経営が苦しいから、女性従業員は、解雇する。」と言われ、即時解雇されたのです。社長は、「雇い主は、一ヵ月分の給料を渡せば、いつでも従業員を解雇できる。このご時世だからしかたない」と言うのです。本当にそうなのでしょうか。
弁護士:そのようなことはありません。よく誤解があるのですが、確かに従業員を解雇をする場合には、一ヵ月の予告期間を置くか、一ヵ月分の給料相当額を支払わなければなりません。しかし、これは、あくまで解雇が有効な場合に雇い主に課される義務についての規定です。
相談者:でも雇い主は従業員をいつでも解雇する権利があるのではないのですか。
弁護士:それも誤解です。今回のような経営不振を理由とする人員整理のための解雇を「整理解雇」と言うのですが、多くの裁判例によれば、(1)整理解雇について経営上の必要性があること、(2)解雇回避努力義務を尽したうえでの整理解雇であること、(3)被解雇者の選定基準が客観的・合理的であること、(4)組合および労働者に事前に協議し、説明の義務を尽したことという四つの条件を満たさないかぎり、整理解雇は無効ということになります。
今回の解雇の場合、整理解雇が必要なほど会社の経営が悪化しているのか、整理解雇という最後の手段を取る前に、他の再建策を尽していたのか、はっきりしません。確かに、長引く不況のもとでリストラが叫ばれていますが、他方で、リストラの名の下に合理性のない安易な整理解雇がなされがちなことにも注意しなくてはなりません。
本件では、何よりも整理解雇の対象者を女性に限っている点で、性による差別が存することが明らかであり、選定基準が合理的とは到底言えず、解雇は無効です。
相談者:事前に会社から整理解雇を行う予定であるという説明も一切ありませんでした。このような場合、どのような方法で解決したらよいのでしょうか。
弁護士:最終的には訴訟で解雇が無効であるとの判断を求めることになりますが、その間、収入が絶たれると労働者の生活が成り立ちません。まずは、裁判所に、賃金仮払いの仮処分を申し立てることになります。早速、申し立ての準備に取りかかりましょう。
相談者:お願いします。