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1999年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「交通事故の休業損害 公的証明書を基に算定」神戸新聞 1999年11月12日掲載

執筆者:浅田 修宏弁護士

交通事故に遭って、しばらく仕事ができなくなった自営業者。前年の所得を実際より少なく申告していたために、休業損害を請求する段になって、思わぬ展開になってしまいました。

相談者:先生、先日交通事故に遭ってしまいました。元町駅前の横断歩道を歩いていた時、左折車と接触したんです。

弁護士:それは災難だったね。けがの方はどうなの。

相談者:はい、接触して転んだ時に右手を強くついたため骨折してしまったんですが、おかげさまで今ではすっかりよくなりました。

弁護士:加害者との示談はどうなっていますか。

相談者:相手は保険会社の担当者が出てきて、交渉しているんです。骨折の治療のために、3カ月ほど仕事ができなかったんですが、保険会社は休業損害を認めてくれないんです。

弁護士:あなたの職業は何ですか。

相談者:自営で人を3人ほど使って工務店をやっています。

弁護士:自営業者の休業損害は、事故前年の確定申告書の控え、納税証明書の控えなどの公的証明書に記載された金額を元に計算されるはずですが。

相談者:はい、私も前年の確定申告書の控えを提出しました。ただ、お恥ずかしい話なんですが、実際には1000万円以上の所得があったんですが、300万円しか申告していなかったんです。保険会社には実所得を基礎に休業損害を計算して欲しいと要求しているんですが、認めでくれないんです。保険会社の言う通りに示談しないといけないんでしょうか。

弁護士:なるほど、そういうことですか。結論から言うと、休業損害算定の基礎となる所得は、原則として、確定申告書等の公的証明書に記載された金額になります。国民の義務の履行という場面で少なく申告しておいて、損害賠償を請求するという場面では多く認めてもらおうと思っても、なかなか難しいのです。

相談者:そうですか。裁判に訴えれば認められないでしょうか。

弁護士:あなたが実所得と主張される金額を得ていたことを立証できれば可能です。ただ、実際にはそのような立証はかなり難しいでしょうね。

相談者:裁判をしても同じということですか。

弁護士:いえ、裁判では仮に実所得の立証ができなくても、平均賃金以上の所得を得ていた蓋然(がいぜん)性が認められれば、平均賃金を基礎にして休業損害を計算される可能性はあります。あなたの申告額は平均賃金よりも低いですから、裁判に訴えた方が賠償額は多くなる可能性が高いですね。

相談者:そうですか。心強くなりました。もう一度保険会社の担当者とよく話し合ってみます。