「不倫出産 裁判で強制認知も可能」神戸新聞 1999年10月22日掲載
執筆者:中瀬 稔弁護士
知り合いの明子さんが、妻子ある男性の子を妊娠したと相談に来ました。生まれてくる子どもの法律的な立場や認知の手続きは、どうなっているのでしょうか。
明子:先生、私、妊娠しちゃった。
弁護士:え、僕は覚えがないよ。
明子:ばかね。先生じゃないわよ。父親は妻子のある男性で、いわゆる不倫なの。私は生むことにしたんだけど、今後のことについてアドバイスしてほしくって相談に来たのよ。
弁護士:そういうことか。
明子:産まれてくる子は、法律的にはどういう立場になるのかしら。
弁護士:婚姻関係にない男女の間に生まれた子だから、非嫡出子という立場になるね。この場合、明子さんと赤ん坊の親子関係は分娩(ぶんべん)の事実で明らかだから問題ないけれど、父親との親子関係を発生させるには認知が必要になるよ。
明子:認知ってどうすればいいの?
弁護士:認知とは「非嫡出子について、自分の子であることを承認する意思表示」のことをいうんだけど、父親が自発的に自分の子であると認める任意認知と、裁判により強制的に認めさせる強制認知があるんだ。任意認知なら子の戸籍のある市区町村に届け出ればいい。また、遺言によることも可能なんだ。
明子:彼がそんなことしてくれるはずがないわ。じゃあ、強制認知の方法を教えてよ。
弁護士:まず家庭裁判所に認知の調停申し立てをして、それで彼との間で合意ができなければ、地方裁判所に認知の訴えを提起することになるね。彼が親子関係を否定しても、最近のDNA鑑定は99パーセント以上の精度で親子鑑定が出来るらしいよ。ただし、認知の訴えは父親が死んだあと3年を経過すると提起できなくなるから注意してね。
明子:あっ。そう言えば、この前彼と会ったとき、認知請求しない約束させられちゃった。まずかったかしら。
弁護士:ひどい男だなあ。でも心配いらないよ。認知請求権は放棄できないこととされているからね。
明子:良かった。でも認知さえ済めば、生まれてくる子に不利益はないのかしら。
弁護士:認知が認められれば、親子関係において認められるすべての効果が出生時にさかのぼって発生するから、例えば未成熟の子は父親に対して養育料を請求できるよ。もっとも、相続権については、現行法上は非嫡出子には嫡出子の半分しか認められていないんだ。この規定は不合理な差別だとして批判が強いところだけれど、今のところは改正されていないからね。
明子:えーっ。そんなのおかしいわ。先生、どうにかしてよ。今の私の稼ぎじゃ、赤ん坊を育てられないかも…。
弁護士:うーん、困ったな。じゃ、僕と結婚するか。
明子:それだけはイヤ。私、頑張って働くわ。