「債権の時効」神戸新聞 1999年9月24日掲載
執筆者:戸越 照吉弁護士
法律相談に来たAさん。ひどく深刻な表情です。かなり以前の記憶もあいまいな借金の取り立てに遭って悩んでいるようですが、いいアドバイスが得られたでしょうか。
Aさん:先生、サラ金業者が債権を譲り受けたと言って、再三取り立てに来て困っているんです。
弁護士:その借金というのは、借りた覚えはあるんですか。
Aさん:昔に借りた覚えはあるんですが、返したかどうかはよく覚えていないんです。
弁護士:もと借りたところが、会社であれば5年、個人であれば10年で時効により消滅しますから、時効期間が経過していれば返す必要はないですよ。どこから譲り受けたと言ってますか。
Aさん:とにかく脅し文句をならべられるので怖くて、どうしていいか分からないんです。
弁護士:時効消滅した債権を安く買い取って、脅迫まがいの取り立てをする業者がありますから、まず、脅しには屈しないようにして下さい。1万でも2万でもと言われて業者に払ってしまうと、時効期間が過ぎていても後で時効で消滅しているといえなくなりますし、払いますと言うことも債務の承認ということになり、時効消滅を言えなくなることもあります。
Aさん:業者に対して、どのようにしたらいいんでしょうか。
弁護士:とにかく脅しには屈せず、時効で消滅していると主張しなさい。業者が家に押し掛けてきたようなときには警察に連絡するとともに、警察にも被害届を出すことです。できたら、業者の脅しをテープに録音しておきなさい。それと、できるだけ早く弁護士に相談しなさい。
Aさん:そうすれば、取立は止むでしょうか。
弁護士:そのような業者は人の弱みにつけ込んで、不当な利益を上げようとする業者が多いので、あなたが断固たる法的手続きに訴える姿勢をみせれば、大抵の場合、何も言ってこなくなります。とにかく、弱みを見せずに毅然とした態度でいることです。弁護士に依頼して警告書を出してもらったり、交渉してもらったりした方が、いいと思います。
Aさん:そうですか、すこし安心しました。弁護士さんに相談するとともに、警察にも被害届を出してみます。