「結納後の婚約破棄 慰謝料の請求も可能」神戸新聞 1999年7月9日掲載
執筆者:武本 夕香子弁護士
結納が済んでから突然、相手の心変わりで婚約を破棄されました。しかも、相手の男は結納金の返還を要求しています。応じなければいけないのでしょうか。
八:兵さん、今日はめいっ子の相談に乗ってほしいんだがな。
兵:ああ、あの純情そうなめいっ子の富ちゃんかい。今度結婚するって話しだったよね。
八:その結婚がだめになっちまってよ。
兵:えっ。この間、結納まで済んだって話しだったんじゃねぇのかい?
八:そうなんだけどよ。相手の男が別に好きな女ができたってんで「結納金を返してほしい」て言われてるのよ。お富は花嫁修業もせっせとしてたのに、ふびんでな。何とかならねぇもんかね。相手の男が勝手に別に好きな女ができたってんで婚約が破棄されるってのに、結納金を返さなきゃならないなんて、おかしいんじゃねぇのかい?
兵:そりゃ、お富ちゃん本当にかわいそうだね。その場合、結納金は返さなくてもいいだろうね。判例上は一応判断が別れるところだが、結納金を渡した方が不当に婚約破棄した場合、その者からの結納金返還は認めれないって裁判が優勢だと思ってもらっていい。
八:そりゃ良かった。でも、それだけなら、なんか釈然としねえな。お富のやつ婚約破棄されてから後ってのは、ノイローゼになっちまって毎日病院通いをしてるんでさぁ。何か請求できないもんかね。
兵:場合によっては、お富ちゃんは、相手の男に対して医療費や慰謝料について損害賠償を請求できるね。
八:へぇー。それじゃ、すぐに相手の男を訴える準備をしてくんな。
兵:そう先を急ぎなさんなって。まず、お富ちゃんの病気を治して損害賠償請求額を確定させるのが先なんじゃないのかな。それに、裁判では婚約が成立したとの証明や相手に外に好きな女性ができたとの証明が難しかったりするし、こういう問題は、できる限り、公開の裁判手続きに乗せない方がいいんじゃないかな。まずは調停制度を利用したらどうだい。調停だと傍聴人のいない調停室で、調停委員に細かい事情を聞いてもらえるしな。
八:その、ちょうへい制度ってのは一体なんだい?
兵:調停だよ。調停っていうのはね、まあ平たく言ったら裁判所を利用した両者の話し合いだな。
八:じゃ相手の男と顔合わすのかい?
兵:その心配はいらないよ。調停では普通は一方ずつが交代で部屋に入って調停委員に話を聞いてもらうシステムになってるからね。
八:そりゃ好都合だ。
兵:家庭裁判所に申し立てるんだよ。早く解決してお富ちゃんにが立ち直ってくれたらいいんだけどな。
八:じゃ。またくるぜ。
兵:お富ちゃんによろしくな。どうせそんないい加減な男となら、一緒にならないで良かったとも言えるしな。
八: ああ、伝えとくよ。