「小口債権の回収方法 内容証明や簡裁の調停で」神戸新聞 1999年6月18日掲載
執筆者:大塚 明弁護士
何百万円という債権なら、貸す時や掛け売りの時にも慎重になるものです。しかし、何万円という程度の債権は、つい気楽に構えてしまいがち。でもこれがたまると、ばかになりません。
弁護士:不況だというのに景気が良さそうですね。
相談者:違うんです。おかげさまでよく売れはするんですが、売り掛けの未収がたまって大変なんです。
弁護士:どれくらいの未収があるんですか。
相談者:1件あたりは数万円からせいぜい十万円までですが、それが二十件、三十件となるとねえ。
弁護士:それは大変ですね。請求はしているんですか。
相談者:毎月請求書を送っています。ときには電話もしています。
弁護士:大きな額ですと多少のコストをかけても、と言えますから、弁護士としても訴訟や差し押さえなどいろんな解決策を提案しやすいんです。1件2百万円の債権回収をするのに、例えば50万円の費用がかかるとしたらどうします?
相談者:それで回収できるんならお願いします。
弁護士:それなら1件5万円の請求に、仮に5万円かかるとしたら?
相談者:それでは何のためにということになりますよ。
弁護士:そうなんです。依頼者のお役に立って、弁護士としても引き合うケースは喜んで引き受けられます。しかし、一件5万円の請求訴訟だと、仮に全部を頂いたとしても訴訟などでは弁護士としてコストが引き合わないんです。相手の名前と金額が違うだけで請求内容はほとんど同じなら、まとめて処理すれば多少はコストも引き下げられるでしょうけれど。
相談者:では、どうすればいいんですか。
弁護士:訴訟のようなコストの高い手段は難しいでしょうから、コストの低い方法を考えてみましょう。内容証明郵便も1つの方法です。それを弁護士の名前で出してもらうのも一案です。
相談者:内容証明には何か法的効力があるんですか。
弁護士:いいえ、単に証拠として残るだけで、法的な強制力はありません。でも弁護士から内容証明が来たら、あなたならどうします?
相談者:ヤバイ!と思ってすぐ払うでしょうね。
弁護士:そう思ってくれれば効果はあるわけです。他に自分で簡易裁判所に調停を申し立てるという方法もあります。裁判所が双方を呼び出して話し合いの場を設けてくれます。分割払いなどで話がまとまれば調書を作ります。調書は判決と同じですから差し押さえも可能です。今度の民事訴訟法改正でできた簡易裁判所の少額事件訴訟手続きも検討してみる価値があるでしょう。