「事故の示談後に症状悪化 別の損害として請求も」神戸新聞 1999年2月5日掲載
執筆者:笹野 哲朗弁護士
交通事故はいつ、自分が被害者に、また加害者になるか分からない身近な問題です。今回は一度示談した後に、別の重い症状が発生したケースです。
相談者:大したけがではないと思って簡単に示談書にサインしたのですが、症状が思ったより重くて因っているのです。
弁護士:どんな症状ですか。
相談者:初めは打撲だけで三週間もすれば治ると言われたのですが、今になって視力が低下し、手術する必要があると言われて。
弁護士:交通事故が原因というのは明確なのですか。
相談者:衝突のショックによって眼球に異常が発生したと、医者ははっきり説明しています。
弁護士:最初の示談のときはまったく予想できなかったのでしょうか。
相談者:私も医者も考えもしなかったので、安い賠償額で済ましたのです。
弁護士:似た例は結構聞きますが、別の損害として治療費、慰謝料や休業損害を加害者に請求できます。あなたのケースではすべての損害を正確につかめなかったのは無理もなかったようですし、示談当時に予想していた損害についてだけ解決済みと考えるべきです。
相談者:それを聞いて安心しました。
弁護士:筒単に安心してもらっても困るんだけど。
相談者:どうしてですか。
弁護士:本来、示談はこれですべて解決済みとして今後一切の損害は請求しないのが大原則だからね。加害者の立場になったらよく分かると思うんだが。
相談者:確かに後から後から訳の分からない請求があったら、加害者もたまりませんよね。
弁護士:被害者としても示談後に起こった症状は、交通事故との関連性を裏付けるのは簡単ではない。示談から時間が経過していると証明は大変です。やはり示談するのは慎重でなければいけないよ。
相談者:よく診断を受けて納得した上でサインすることが大切ですね。