「借地の建物だけに抵当権」神戸新聞 1998年2月5日掲載
執筆者:中野 二郎弁護士
借金の保証に抵当権を設定するときにも、いろいろな注意が必要です。今回は借地に建っている家にだけ抵当権をつけたケースの相談です。
相談者:大変なんですよ。何とかしてください。
弁護士:おやおや、何が大変なんですか。
相談者:友達が平身低頭して頼むもんだから、二百万円ほど金を貸してやったんです。
弁護士:はい。
相談者:ところが、弁済期が来ても知らんふり。もう、腹が立って。
弁護士:まあ、落ち着いてください。
相談者:幸い、友達の自宅に抵当権を設定してもらってたんで、何とか元金の回収ぐらいはできると思ってたんですよ。ところが、ある人から建物だけに抵当権を設定しても価値がないよって言われたんです。
弁護士:そうでしょうね。
相談者:えっ? どういうことですか。
弁護士:その説明の前に、どうして家だけに抵当権を付けたんですか。
相談者:土地は借地でその友達のものではなかったんですよ。まあ、建物だけでも二百万円ぐらいの価値はあるだろうから大丈夫だと思ったんです。
弁護士:なるほど。ところで今のお話ですか、あなたが裁判所に友達の家を競売にかけるよう申し立てたとします。
相談者:ええ。
弁護士:まず抵当権は、建物とその敷地利用権である賃借権に及びますから、だれかか建物を競落すれば、借地権は競落人に移転します。でも、地主さんにしてみれば勝手に借地権を移転されたのでは、土地がどうなるか分かったもんじゃありません。
相談者:そうですね。だれが競落するか分からないんですからね。
弁護士:だから、借地権の譲渡は地主の承措がない限り、地主に対抗できないとされているんですよ。
相談者:対抗できないってどういうことですか。
弁護士:地主との関係では譲渡は無効だということです。地主の承諾に代わる許可を求める訴えを裁判所に提起する方法もありますが、遠回りな手続きです。だから、実際では建物だけに抵当権を設定するようなことはまずしないんですよ。したとしても、先に地主から借地権譲渡の承諾書をもらっておくんです。
相談者:なるほど。
弁護士:それもない物騒な物件なんて、だれも競落しないでしょ。
相談者:そうか。でも、弱ったな。
弁護士:まあ、元気を出して。まずは判決を取ってその友達の給料や動産でも差し押さえてみましょう。