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意見表明(1998年-2010年)

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共謀罪新設に改めて反対する会長声明

2006年(平成18年)10月12日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘

 政府与党は、今国会で「共謀罪」の新設を柱とする「組織犯罪処罰法改正案」の可決成立を重要課題として位置づけている。しかし、「共謀罪」の規定は、わが国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高く、さらに、導入の根拠とされている国連越境組織犯罪防止条約の批准にも不可欠とはいえない。

 「共謀罪」とは、長期4年以上の刑を定める犯罪について、団体の活動として共謀した者を、5年以下もしくは2年以下の懲役または禁固に処するというものである。従って、犯罪の実行行為がなくても、関係者の単なる「合意」だけで処罰ができることになり、内心の自由を侵害し、思想・表現自体に対する処罰に限りなく近くなる。近代刑法においては、原則として犯罪の実行行為を処罰するという基本原則が確立しており、人の内心や思想・表現を処罰することは許されないというべきである。

 ところが、「共謀罪」の対象犯罪は600以上に上り、重罪に対する例外的措置というよりは、窃盗、傷害などほとんどの犯罪について、未遂にもいたっていない段階で、広く処罰することになる。これは、戦前の治安立法による深刻な内心の自由の侵害、思想言論表現の弾圧への反省から再出発したわが国の基本原則を揺るがし、基本的人権との深刻な対立を引き起こすおそれが極めて高い。このようなことから政府も、既に7年前、国連の条約起草会議で「共謀罪は日本の法原則になじまない」と主張していた。

 そもそも、わが国の現行法においては、既に重大犯罪についての予備罪・準備罪などが規定されており、さらに組織犯罪でよく利用される銃の所持に対する処罰規定などもあり、現在でも組織犯罪に関わる重大犯罪について未遂以前の段階での処罰が十分可能である。従って、共謀罪を導入することなく国連越境組織犯罪防止条約を批准することができる。

 以上のとおり、わが国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高い「共謀罪」の新設には、改めて反対する。