「兵庫県国民保護計画案」に反対する声明
2006年(平成18年)1月23日
兵庫県弁護士会 会長 藤井 伊久雄
1) 兵庫県国民保護協議会は、今月18日に開催された第3回協議会において、「兵庫県国民保護計画案」(以下「計画案」という)をまとめた。
当弁護士会は、既に成立した「武力攻撃事態法」やこれを具体化する「国民保護法」などの一連の有事法について、基本的人権の保障など憲法の諸原理に照らして、その内容に問題があることを指摘して、その成立に反対の意見表明をしてきた。
今回まとめられた計画案も、基本的人権保障などの憲法上の諸原理に照らして多くの問題を含んだ内容となっている。
2) 先に当弁護士会で発表した「兵庫県国民保護計画作成に対する意見書」(2005年7月22日付)でも指摘したとおり、国民保護措置の実施にあたって、万が一にも基本的人権を侵すことのないようにするには、国民保護措置ごとにどのような人権と抵触する危険があるのかを具体的に指摘して、人権侵害を防止するための具体的な方策を国民保護計画に規定する必要がある。
ところが、計画案においては、その総論部分において、「県民の自由と権利を最大限に尊重する」という抽象的な人権擁護規定をおいている以外には、放送事業者の自律性の保障に言及しているなど若干の人権への配慮をした規定を設けているだけで、第2編以下の各論において人権保障に関する具体的な言及がほとんどなく、極めて不充分な内容である。
例えば、国民保護措置の中には、生活関連施設や周囲への立入禁止措置、警戒区域の設定に伴う立入禁止措置など、罰則による強制を伴う措置もある。その実施が恣意的に行われれば、取材活動や住民の移動の自由などの人権を侵害する恐れがあるがこれら人権との調整に関しては何ら規定されていない。自衛隊や米軍の行動が住民の生命身体等の安全を脅かすことのないよう調整する等の規定もない。国民保護に関する啓発においても、保護措置と人権保障との関係について平素から啓発活動が行われるべきことが明記されるべきである。
いわゆる有事と言われる事態において、様々な事実上の人権侵害が行われ、また、有事に備えるという理由から平時においても人権侵害が行われる危険があることは、歴史の教えるところであり、人権擁護規定を抽象的に定めるだけでは、人権侵害を防止することはできない。
このように計画案には、国民保護措置の実施によって発生する人権侵害を防止するための具体的規定を十分に定めていないという重大な欠陥がある。
3) また、兵庫県では、これまでに住民らの意見を直接聞く機会としては、十分な広報も行わず、資料も不充分なままで、短期間に一度だけ実施されたパブリックコメントの募集と一度の県民保護フォーラムの開催があっただけであり、県民のあいだに国民保護計画の概要が未だに殆ど知られていない状況である。
国民保護計画の内容が、住民の人権保障に直接関わり、また、住民の生命、身体、財産の安全にとっても重要な意義を有すること、また、国民保護措置の実施を直接担う地方公共団体の職員、運輸関係など指定公共機関、指定地方公共機関の職員の安全にとって、国民保護計画に具体的な安全配慮のための規定がなされる必要があること、からすれば、国民保護協議会での審議において、公聴会を開催するなどして、住民や職員らの意見を聴取する十分な機会を設けて、これを反映するべきであった。今からでも県知事は、国民保護計画を策定する上で、住民らから直接に十分な意見を聞くべきである。
4) 以上の通り、当弁護士会は、基本的人権保障のための具体的規定を欠いたまま、しかも住民らの意見を十分に聴取することもなく、「兵庫県国民保護計画案」を策定することに反対するものである。
以上