共謀罪の新設に反対する会長声明
2005年(平成17年)7月21日
兵庫県弁護士会 会長 藤井 伊久雄
現在、国会において、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」といいます)が審議されています。
本法案において、「共謀罪」の新設がはかられていますが、共謀罪は、以下のとおり重大な問題をはらんでおり、人権保障上看過できないものであります。
1.共謀罪は、長期4年以上の刑を定める犯罪について、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者を、5年以下の懲役または禁固もしくは2年以下の懲役または禁固に処するものです。
2.ここに「共謀」とは、犯罪を共同で遂行しようという意思を合致させる謀議あるいは謀議の結果として成立した合意を言います。したがって、共謀罪は、犯罪の実行に着手することはおろか何らの準備行為をすることも必要なく、単なる犯罪の合意を処罰するもので、客観的な行為があって初めて犯罪が成立するという我国刑法の大原則に反するものです。
また、共謀という概念自体が曖昧なものであり、思想自体を処罰するおそれが大きく、思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由など、憲法上の基本的人権が重大な脅威にさらされることになります。
さらに、共謀罪では会話や電話、メール等の内容が犯罪を構成することになり、その内容を察知するため盗聴などの捜査が行われ、合意を立証するため自白偏重を招く危険性もあります。
3.また、「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行われるもの」という要件では、対象が、本法案制定の根拠となった「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」が求めている国際的な組織的犯罪集団に限定されていないため、一般の政党、NPOなどの市民団体、労働組合、企業等の活動も処罰の対象となるおそれがあります。たとえば、市民団体が、マンションの建設に反対して着工現場で座り込みをしたり、労働組合が、妥結するまで徹夜も辞さずに団体交渉を続けようと決めるだけで、組織的威力業務妨害罪や監禁罪の共謀をしたとして処罰されかねません。
4.このように、共謀罪は、基本的人権を侵害し、監視社会を招くなど、市民生活にとって重大な脅威となるものであり、当会は、その新設に強く反対します。