司法修習生の給費制堅持を求める緊急声明
2004年(平成16年)6月10日
兵庫県弁護士会 会長 滝本 雅彦
現在、司法修習生に対する給費制を廃止し、貸与制に移行させようとする具体的な動きがある。その背景には国の厳しい財政事情が伺えるが、国家的使命としての法曹養成制度に思いをいたすならば極めて遺憾なことと言わざるを得ない。
法曹養成は単なる職業人を養成するだけのものではなく、国民の権利擁護や民主主義の確立にとって重要な「法の支配」の実現にかかわるプロフェッションたる法曹を養成するものである。従って、法曹養成制度の適切な設計及びその運用は、国及び社会にとって極めて重要な責務であり、かような法曹養成を国費で行うことは社会の要請するところであるから、国の一時的な財政事情により左右されるべきものではない。
給費制は、司法修習生の生活を保障することによって修習に専念させ、もって、質の高い法曹を確保することを目的とするものであり、司法修習制度と不可分一体のものである。近時、医師養成の分野においても研修医の生活を保障し、研修に専念させる環境を整えるため国費を支出する動きがあるが、司法修習生の給費制はこれと同趣旨のものである。
ところで、新たな法曹養成制度は、従前の司法試験による選抜ではなく法科大学院を中心とするものに改め、法科大学院での履修に続いて新司法試験を受験させるものとなったが、この新制度のもとでも新司法試験合格者に対し引き続いて実務修習を中心とした司法修習を履修させることとなっている。
法科大学院に在学する間には多額の学資や生活資金が必要となるが、その上さらに司法修習生に対する給費制が廃止されるとすれば、法曹を目指す者にとって経済的負担は甚大なものとなり、今後は経済的富裕者のみしか法曹資格を取得できなくなると言っても過言ではない。
かかる状況下では、多くの有為の人材が経済的理由から法曹への道を諦めざるを得なくなることが強く懸念され、「熱き心と高い志」を持った質の高い法曹の養成を求める社会的・時代的要請に反し、極めて憂慮すべき事態を招来するものであって、国民に対する司法サービスの充実という本来の司法改革の趣旨にも背を向けるものである。
なお、貸与制を採ったうえで任官者には返還を免除するという案も検討されているが、この考え方は実質的には任官者についてのみ給費制を維持するというものであり、法曹養成における統一・公正・平等の理念に基づく司法修習のあり方を変容させ、官民格差を生じさせるとともに、弁護士任官の推進、法曹一元実現の大きな阻害要因となるものであり、到底容認できるものではない。
よって、兵庫県弁護士会は、司法修習給費制の廃止に反対し、同制度の堅持を強く訴えるものである。