自衛隊等のイラク派遣に反対する会長声明
2003年(平成15年)12月12日
兵庫県弁護士会 会長 麻田 光広
政府は、12月9日、イラク復興支援特別措置法(以下「イラク特措法」という)に基づく自衛隊派遣の概要を定める「基本計画」を閣議決定した。
「基本計画」によると、自衛隊の活動の内容には、人道復興支援活動とともに、イラク国内における安全及び安定を回復するために米軍等が行う活動への支援活動(安全確保支援活動)が含まれており、また、陸上自衛隊の装備は、無反動砲、個人携帯対戦車弾、装輪装甲車、軽装甲機動車など、過去のPKOなどで携行した装備と比較しても重武装化している。
現在イラクでは、米兵等に対する攻撃が全土で連日のように発生し、日本人外交官2名が殺害されるという悲惨な事件も起きている。米軍も認めるとおり、「イラクは戦争状態にありその全土が戦闘地域」で、イラクには安全な「非戦闘地域」など存在しない。このような地域に自衛隊を派遣することは「自衛隊等の対応措置は非戦闘地域において実施し、武力による威嚇または武力行使にあたるものであってはならない」とするイラク特措法の基本原則に違反することは明らかである。
また、自衛隊の活動内容に安全確保支援活動が含まれていることからしても、今回の派遣は、米英による侵攻の戦後処理としての占領行政に対する協力に他ならない。このような状況下で自衛隊を派遣するとなれば、米軍の協力者として攻撃の標的となり、自衛隊員が死傷する事態、さらには、大使館員やNGO関係者などイラク国内の民間日本人までもが広く攻撃の標的となるおそればかりか、自衛隊員がイラク国民に対し装備する対戦車砲等を用いて武力行使をせざるをえない事態が発生するおそれがあり、戦後初めて、自衛隊が他国の領土内で他国民を殺傷し、自衛隊員等も殺されるという、「殺し、殺される」(小泉首相)事態を呼び込むことになる。
小泉首相は憲法前文の一部だけを引用して自衛隊派遣の正当性を説明しているが、憲法は、その前文において、全世界の人々に平和的生存権を認め、紛争の平和的な解決に努めることを理念として高く掲げ、第9条において、国際紛争を解決する手段として武力を行使することを放棄しているのである。
自衛隊のイラク派遣は前述した通りの事態を招来するおそれが高く、その危険さをかえりみずに派遣を強行することは、憲法前文の理念に反し、憲法第9条に違反するもので絶対に許されないものである。
当会は、政府の「基本計画」の閣議決定に断固反対し抗議するとともに、自衛隊のイラク派遣中止を強く求めるものである。