個人情報保護法案等に対する会長声明
2003年(平成15年)4月25日
兵庫県弁護士会 会長 麻田 光広
1、去る4月8日、昨年12月の臨時国会で廃案となった民間部門を対象とする個人情報保護法案、行政機関を対象とする行政機関個人情報保護法案が再度衆議院で審議入りし、これまで政府案に反対していた野党側も基本的に応じる方針に転じたため、衆議院本会議で5月連休明けに採決される見通しとなっている。
しかしながら、以下に述べるとおり、現在審議されている新法案は、いずれも個人情報保護について看過できない重大な問題を含む点では従前の法案と何ら変っていないため、個人の人権を侵害するおそれが極めて高いといわざるを得ず、当会は、新法案に対しても、反対するものである。
2、そもそも、これらの法案は、前者については主にメディアの取材・表現の自由・国民の知る権利を侵害するものとして、また、後者については情報の収集制限、不正行為者に対する罰則規定がないなど民間に比べ行政機関に甘い法案であるなどの市民、メディア、弁護士会からの強い批判を受け、廃案となった経緯がある。
政府はこれらの批判を受け、新法案においては、個人情報保護法案についてメディアに対する一定程度の配慮をし、行政機関個人情報保護法案については公務員に対する罰則規定を設けるなどの修正をして、再度の法案提出に及んだものである。
3、まず、個人情報保護法案については、依然として、全ての民間部門を一律に規制するという基本構造をとっている。これは一方でメディア、弁護士・弁護士会、NGOその他の団体・個人(たとえば団地自治会、同窓会、労働組合、生活協同組合等)については主務大臣が個人情報の取扱方法等を口実に、これらの市民団体等の活動に介入する権限を与えることとなり、市民的自由にとって重大な危機、脅威といわなければならない。同様に、本来自由かつ自治的になされるべき弁護士・弁護士会の市民の権利擁護、人権擁護活動に対し、主務大臣が個人情報保護を口実に干渉する恐れが拭えず、在野法曹たる弁護士・弁護士会を公権力の監視下におくことになりかねない。
また、法案ではメディアの取材・表現の自由に対する配慮をしたとするが、「出版」が適用除外から外されており、また、「報道の用に供する目的」か否かの審査権限は主務大臣が掌握しており、大臣が「客観的事実の報道ではない」と判断すれば政府が取材・報道を差し止めることができ、これに従わない者は処罰できる余地があるなど、依然としてメディアの取材・表現の自由に対する侵害のおそれがある。
4、さらに、行政機関個人情報保護法案については、ほとんどの自治体が個人情報保護条例によって収集制限規制をしている思想、信条、病歴、犯罪歴等の他人に知られたくないセンシティブ情報の規制をしていないこと、「相当な理由」があれば個人情報を目的外に利用したり、他の行政機関に提供することを認め、かつ、その判断を「第三者機関」ではなく当該行政機関が行うこととしている。
この法案の問題点は、防衛庁が市町村から自衛官採用適齢者の個人情報の提供を受けていた問題で改めて浮き彫りになっており、第三者機関によるチェック体制が不十分であるために、行政機関が自己の判断において、必要に応じて広汎に国民の情報を収集・管理・結合・行政内部で流通させるなど、かえって、個人情報を目的外に利用されることに法的根拠を与える内容となっており、住民基本台帳ネットワークシステムの住民票コードで識別管理されることとあいまって、国民総背番号制を導く可能性が極めて高く、個人の情報をコントロールすることにより、国民を支配の客体と位置づけることになりかねない。
5、以上の観点から、当弁護士会は、個人情報保護法案については、依然として一律に、刑罰を背景とした主務大臣の広汎な規制権限の発動が認められる点で、行政機関個人情報保護法案については収集制限や目的外利用禁止などがなく、第三者機関によるチェック体制の設置が担保されない点で、いずれの法案に対しても、強く反対の意思を表明する。
以上